エスコフィエ『料理の手引き』全注解 Escoffier Le Guide Culinaire

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オーギュスト・エスコフィエ
『料理の手引き』全注解
五 島 学
i
エスコフィエの新解釈 参考例
前菜
ブシェ
Bouchées
常、「温ル」
に位置付ける場合には、標準的なブシェよりも
小さいサイズのものにしなくてはいけない。そ
で、「かェ」
記される。形状はどんな仕上りのものにするか
でいろいろに変えてやり、大きなブシェを切っ
た場合とは全然違うものであるとわかるように
すること。
場合によっては、ブシェの蓋の部分は残して蓋
にするが、スライスしたまま、あるいは飾り切
りをしたトリュフを蓋にすることもあるし、ま
た別の場合には、詰めものの一部を蓋として利
用することもある。
ブシェは必ずナフキンの上にのせて供する
こと。
ブシェ・王妃風
Bouchée à la Reine
この種のブシェの、クラシックな、本来の詰め
物は生クリーム入りの鶏のピュレが用いられ
ていた。だが、こんにちでは鶏胸肉とマッシュ
ルーム、トリュフを 12 mm 角の細かいみじ
ん切りにしてソース・アルマンドであえたもの
で代用されている。ほとんど全ての調理現場で
は詰め物に後者を用いるようになってしまっ
た。このブシェの形状は必ず円形で、縁に波形
の模様が入ったものであること。
ほうれんそう・ヴィロフレー1)
Epinards à la Viroay
布の上に下茹でしたほうれんそうの葉(大)を
広げる。それぞれの葉の中心に「ほうれんそう
のシュブリック」を置く。このシュブリックに
はパンの身をバターで揚げた小さなクルトンを
混ぜ込んでおくこと。シュブリックをほうれん
そうの葉で丸くなるように包む。これをバター
を塗ったグラタン皿に並べ、ソース・モルネー
を覆いかける。上からおろしたチーズを振りか
け、溶かしバターをかけてやり、高温のオーブ
ンでこんがり焼く。
ほうれんそうのシュブリック
Subric d’épinards
ほうれんそうは上述のとおり2)にバターを加え
て強火にかけて水気をとばす。鍋を火からはず
し、ほうれんそう 500 g たり、濃いベシャメ
ルソース 1 dL、クレーム・エペス大さじ 2杯、
溶きほぐした全卵 1個と卵黄 3個、塩、こしょ
う、ナツメグを加える。フライパンにたっぷり
のバターを熱して充分な量の澄ましバターを用
意する。
ほうれんそうでつくったアパレイユをスプーン
で掬いとり、指で押し出すようにして澄ましバ
ターの中に落としていく。シュブリックの成形
をそのまま続けていくが、隣り同士で触れ合わ
ないように注意すること。1分程焼いたら、パ
レットナイフかフォークで反対側の面にも焼き
色を付けてやる。これをメインの料理の皿か野
菜料理用の皿に盛り、ソース・クレームを別添
で供する。
【原注】シュブリックのアパレイユには別の作
り方もある。バターを加えてほうれんそうの水
気をとばしたら、ほうれんそうと同量の、やや
濃い目に作ったクレープ生地を混ぜ込む。
1) パリ郊外南西のヴェルサイユ近くの地名。ほうれんそうの栽培で有名で、ヴィロフレーという名称の伝統品種もある。
2) 「ほうれんそうのクリームあえ」参照。ほうれんそうは下茹でして水にはなしてから、水気を絞り、みじん切りにするか裏漉
ししてから、ほうれんそう 500 g あたりバター 60 g とともにソテー鍋に入れて強火にかけ、余計な水分をとばす。
ii エスコフィエの新解釈 参考例
ポタージュ
コンソメ・ラブレー1)
鶏のコンソメにペルドローのフュメを加える。
浮き実……生クリーム入りペルドローのファル
をコーヒースプーンで成形し、提供直前に沸
騰しない程度の温度で火を通した2)クネル。マ
デイラ酒風味で火を通したトリュフの細い千
切り3)
別添……パルメザン風味の小さなプロフィット
ロール。
ピュレ・コンデ4)
Purée Condé
赤いんげん豆は塩 18 g を加えた冷水 11/2L
入れて火にかける。沸騰したら、しっかりアク
を取り5)、赤ワイン 21/2dL を沸かしてから加
える。ブーケガルニ、クローブを刺した玉ねぎ
1個、四つ割りに切ったにんじん 1本を加えて
む。
ら、て、ぎ、
にんじんは取り除く。いんげん豆を丁寧にすり
潰す。煮汁でのばしてから布で漉し、提供直前
にバターを加える。
1) フランスのルネサンス期を代表する人文主義者、小説家であり医師でもあったフランソワ・ラブレー(? 〜1553のこと。
おこのレシピは第四版のみで、初版は「ジビエのコンソメにヴヴレ産白ワイン 2 dL を煮詰めて加える(コンソメ 4 L あたり)
浮き実は小さな棒状にしたトリュフ風味のひばりの小さなクネルと、セロリの千切りをコンソメで軽く煮たもの (p.23)。第二
版では「ジビエのコンソメに、1 L あたりヴヴレ産白ワイン 1/2dL を煮詰めて加える。浮き実……トリュフを加えたひばり
ファルスを刻み模様の付いた口金で絞り出したクネル。セロリの千切りをコンソメで軽く煮たもの (p.170)」となっているが、
第三版にこの名称のレシピは掲載されていない。なお、ラブレーはシノン郊外の生まれであるため、トゥーレーヌ産のワイン
(とりわけシノンの赤)が引き合いに出されることが多い。
2) pocher(ポシェ)
3) ne julienne(フィーヌジュリエンヌ)
4) ブルボン王家の支流にあたる Prince de Condée(プランスドコンデ)コンデ大公のこと。赤いんげん豆のポタージュにコンデ
の名称を冠したのは文献上はおそらくヴィアール『帝国料理の本』1806 年)が初出。(Potage) A la Condé となっている。ま
た、18 世紀以前の料理書において赤いんげん豆のポタージュはほとんど見つからない。よく知られているように、いんげん豆
はアメリカ大陸原産で 16 世紀くらいにはフランスに伝えられていたはずだが、広まるのに時間がかかったようだ。さて、ヴィ
アールのレシピの概要は、1リトロン(≒ 0.8 L)の赤いんげん豆をブイヨンで煮る。にんじん 2本、玉ねぎ 2個、ポタージュ
の浮き脂少々、クローブ 2本を加える。豆が煮えたら裏漉しして滑らかなピュレにする。これをバターで揚げたパンのクルー
トの上に注いで供する (p.8)。この本にはレンズ豆のピュレのポタージュも続けて掲載されているが、そこにコンティの名はな
く、たんに「レンズ豆のピュレのポタージュ」と称されているのみ。作り方上述のコンデとほぼ同じ。ヴィアールでは『料理
の手引き』に近い非常にシンプルなレシピだが、カレーム19 世紀フランス料理』1巻(1833 年)の「赤いんげん豆のピュ
レのポタージュ・コンデ風」は、11/2Lの赤いんげん豆の殻を剥いて洗う。これを大鍋に入れて、ペルドリ 1羽、バイヨンヌ
の生ハム 1切れ、にんじん 2本、玉ねぎ 2個、ブイヨン適量を加える。火にかけて煮ながらアクを取る。ペルドリに火が通っ
たらすぐに、ハムや他の根菜とともに取り出す。豆は煮汁ごと布で漉す。このピュレをごく標準的な鶏のコンソメに流し入れ、
粗く砕いたこしょう 1つまみ加えて弱火で煮込む。フルノーの端に鍋を置いて弱火で 2時間程、アクを取りながら煮込む。そ
の後スープ入れに移し、バターで揚げたクルトンを入れておいた各自のスープ皿に供する (p.144)。この本では赤いんげん豆の
ポタージュには「コンデ風」の名称が付けられているが、その次のレシピは「白いんげん豆のピュレのポタージュ」というだ
けの単純な名称になっている。ブルジョワ料理の本として 19 世紀から 20 世紀初頭まで版を重ねたオド『女性料理人のための
本』第 15 版(1834 年)では早くも「ポタージュ・コンデ風」として簡単にだが赤いんげん豆のピュレのポタージュのレシピ
が掲載されている。その一方で、レンズ豆を用いたポタージュについては 1909 年の第 97 版に至るまでレンズ豆のピュレのポ
タージュは掲載されているが「コンティ」の名は冠されていない。
5) écumer(エキュメ)浮いてくる泡を取り除く、が原義。
1) 上記コンデ大公家のさらに傍流。王家の分家の分家という扱いになるが、Prince de Conti(プランスドコンティ)の称号を
つ。ポタージュにコンティの名が冠されたのは、上記コンデの名よりずっと早く、ムノン『宮廷の晩餐』1755 年)第 1巻に
「ポタージュ・コンティ風」とある。ただしこれはレンズ豆を材料にしたポタージュではなく、スライスした玉ねぎを炒めて
煮込み、スープ入れの底にバターで揚げたパン(クルート)を敷いてその上に盛り、刻んだアンチョビを玉ねぎに散らすとい
うもの (pp.91-92)。ボヴィリエの『調理技術』1814 年)第 1巻では「レンズ豆のピュレのポタージュ・王妃風」と出ている。
作り方はえんどう豆のピュレのポタージュと同様にするが、赤レンズ豆を用いて「王妃風」を謳う場合は、上手に煮込んでき
れいな赤色に仕上げるべし、とある (p.22)「レンズ豆のポタージュ・コンティ風」の名称が出てくるのはカレーム『19 世紀
フランス料理』第 1巻。11/2Lの赤レンズ豆 (lentilles à la reine) の殻を剥いて洗う。下茹でしたハム、ペルドリ 1羽、にんじ
2本、蕪 1個、玉ねぎ 2個、ポワロー 2本を束ねたものとセロリの根元 1株を加え、適量のブイヨンを注いで煮る。アクを
取り、3時間弱火で煮込む。根菜、ペルドリ、ハムを取り出してから、レンズ豆を布で漉す。このピュレを普段のとおり作っ
たコンソメに加える。沸騰したらフルノーの端に鍋を寄せて、浮いてくるアク油脂を取り除きながら澄ませていく。提供直前
に、スープ入れに移し、バターで揚げた小さなクルトンを散らす (p.142)。デュボワ、ベルナール『古典料理』1856 年)に
ピュレ・コンデもピュレ・コンティも掲載されていないが、グフェ『料理の本』1867 年)では「赤いんげん豆のポタージュ
ピュレ・コンデ」(p.369) と「レンズ豆のピュレ・コンティ」(p.371) がともに掲載されている。このように、ポタージュにおけ
るコンデとコンティはまったく別々に命名されたものと考えられるため、ブルボン王家の傍流とそのさらに傍流を揶揄したよ
うなものではないと思われる。また、レンズ豆のピュレ自体の歴史は非常に古く、1660 年ピエール・ド・リュヌ『新料理の本』
魚料理 iii
ピュレ・コンティ1)
レンズ豆は欠けたものや割れたものを取り除い
え、3/4L1 L
さいの目に切って下茹でした塩漬け豚バラ肉を
加えて煮込む。乾燥豆を煮る際の標準的な香味
野菜を加える。レンズ豆を取り出して水気をき
り、香味野菜は取り除く。レンズ豆をすり潰し
て、茹で汁でピュレをのばし、布で漉す。
21/2dL し、
提供直前にバターを加え、セルフイユ 1つまみ
で仕上げる。
魚料理
舌びらめ・デュグレレ2)
Sole Dugléré
基本的に、この調理をする魚はトロンソン3)
切っておくべきなのだが、舌びらめの場合は例
外的に丸ごと 1尾で調理してかまわない4)
舌びらめはバターを塗った平鍋に入れる。玉ね
1/2個とエシャロット 2個はみじん切りにし、
トマト 2個は皮を剥いて潰してからざく切りに
して加える。パセリのみじん切り少々と塩、こ
しょう、白ワイン大さじ数杯を加える。弱火で
沸騰させないよう火を通し5)皿に盛り付ける。
舌びらめの煮汁を煮詰める。これに魚料理用ヴ
大さじ 23杯を加えてとろみを付ける
仕上げにバター 30 g とレモン果汁少々を加え、
舌びらめに覆いかける。
サーモンのクリビヤック
Coulibiac de Saumon A
(材料)
砂糖を加えずにやや固めに作った標準的なブリ
オシュ生地約 1 kgブリオシュ生地参照)
サーモン 650 g は線維と垂直に 1 cm 程度の厚
さにスライスし、バターで色付かないよう表面
を焼き固め6)て冷ましておく。
マッシュルーム 75 g と玉ねぎ(中)はみじん切
りにし、バターで炒めて冷ましておく。パセリ
のみじん切り大さじ 1杯強を加えておく。
セモリナ粉のカーシャ 200 g またはコンソメ
200 gガルニチュール
参照)
固茹で卵 2個のみじん切り。卵白、卵黄は分け
なくていい。
(後照)500 g(乾
のヴェジガ 90 g が必要)。乾燥ヴェジガは最
5時間冷水に漬けてもどし、白いコンソメ
3時間半茹でてから、粗くみじん切りにして
おく。
(作業手順)
ブリオシュ生地を長さ 3235 cm1820cm
の長方形に
伸す。中央に「ンタン7)」のよう
に具を詰めていく。カーシャまたは米とサーモ
において Potage de nantilles としてレンズ豆を煮込んで潰したもののレシピが掲載されている (p.315)nantilles という表現は
誤植ではなく、1718 世紀の料理書においてしばしば見られる表現で、もちろんレンズ豆を意味する。裕福な、の意である形
容詞 nanti をレンズ豆 lentilles をかけた造語であり、レンズ豆の形状が硬貨に似ているところから連想されたものと思われる。
また、レンズ豆は地中海世界で農業が始まった頃からの古い作物であり、聖書にも出てくる。詳しくはガルニチュール・コン
ティ訳注参照。
2) アドルフ・デュグレレ Adolphe Dugléré18051884。カレームのもとで学び、カフェ・アングレやトロワ・フレール・プロ
ヴオンソーで料理長を務めた。ポム・アンナポタージュ・ジェルミニ、この舌びらめ・デュグレレなどの料理を考案したこ
とで知られる。とりわけこの料理は 19 世紀中葉に食材として大流行していたトマトを用いている点で、時代性をよく表わし
ている。また、小説家アレクサンドル・デュマ(18021870)の『料理事典』1882 年版と 1883 年版があるが、いずれも死後
出版。前者は「選集」他の著作からの無断引用が多く、食文化史の史料としてはあまり重要視されていない)の編纂に助力し
たとも言われている。
3) tronçon 筒切り、の意で、うなぎなどは文字通りにやや長めのぶつ切りにすることを言うが、チュルボなどのような平らな魚
の場合には、まず縦 2つに切ってから、骨の方向に添うようにいくつかに切り分ける。
4) このレシピは舌びらめをフィレではなく丸ごと 1尾で調理する節に含まれていることに注意。
5) pocher(ポシェ)【参考】ごく少量のクールブイヨンを用いたポシェ……この火入れの方法は主としてチュルボタン、バル
ビュ、舌びらめ丸ごとでもフィレでも用いらる。バターを塗った天板あるいはソテー鍋に魚丸ごとあるいはそのフィレを置き、
軽く塩をして、所要量の魚のフュメかマッシュルームの煮汁を注ぐ。フュメとマッシュルームの煮汁を合わせたものを用いる
場合もある。蓋をして、中温のオーヴンに入れる。魚丸ごとの場合は時折煮汁をかけてやる (原書 pp.279-280)
6) raidir(レディール)素材の表面を色付けないように強火でさっと焼いて表面を焼き固めること。語義としては「焼く」限定さ
れるものではなく、熱湯などの液体を用いる場合もある。
7) 一般的には板などで出来た色とりどりの操り人形のことだが、料理においては、豚肉のファルスを詰めた正方形または楕円型
の小さなパイ包み焼きのこと。ファルスにはトリュフを混ぜ込むこともある。ただし、ここではサーモンを 1cm 厚程度の薄切
りにしているため、前者のイメージのほうが正しく伝わると思われる。
iv エスコフィエの新解釈 参考例
ン、みじん切りにしたヴェジガ、卵、マッシュ
ルームと玉ねぎの層を順に重ねていくわけだ。
最後はカーシャの層になるようにする。
生地の端を軽く濡らして、生地の両端が詰め物
の中心に来るようにしてつなぎ合わせる。こう
して成形したクリビヤックを裏返して、継ぎ目
が下になるように天板にのせる。
暖い場所に置いて、25 分間生地を醗酵させる。
最後に、溶かしバターを刷毛でクリビヤックに
塗り、細かいパン粉を上から振りかける。加熱
中に蒸気が抜けるように上面に切れ目を入れて
穴を空けてやる。中温のオーブンでとりわけ炉
床の温度の強い状態で焼く。
焼成時間……45 分間。
クーリビヤックをオーブンから出したら、溶か
しバターをスプーン数杯、中に流し込んでやる
こと。
【ヴェジガについて】ヴェジガとはすなわちチ
ウザメの脊髄のことで、ロシア料理のいくつか
の品でしか用いられないものだ。これは市場で
入手可能で、リボン状のゼラチンのような見た
目で、質感は魚膠のような感じだ。いろいろな
方法で水で戻して火を通して試した結果、
1. ヴェジガを冷水に漬けて普通にもどすのにかか
る時間は 5時間程度。
2. その程度の時間水でもどすと、だいたい 5
の量になる。さらに長い時間漬けておけばもっ
と嵩も重さも増すが、実際のところ 5
充分。
3. 乾燥ヴェジガ 10 g は水で戻すと 5255 g とい
うことになる。
4. 乾燥ヴェジガを水でもどしてから茹でるのに必
要な液体の量は、ヴェジガ 260270g につき 3
L必要。加熱はごく弱火で、蓋をしてすること。
5. ヴェジガの小さな切れ端を茹でる場合はせいぜ
3時間半〜4時間半でいい。
肉料理
ブフアラモード1)
Boeuf à la mode
作業しやすいよう2.53kg を越えない程度
のイを用る。重量20
なる。
豚背脂 350 g をコニャックで 20 分間マリネし、
こしょう、香辛料で味つけし、直前に刻んだパ
セリをまぶす。これをラルデ針でイチボ肉に刺
し込む。
塩、う、む。
これを赤ワイン 1/2本とコニャック 1 dL 5
6時間マリネする。
が、
を加える。さらに仔牛の足を小さいものな3
本、中位のものなら 2骨を外して下茹でし、
紐で縛って、鍋に入れる。
3/4程度火が通ったら、ひとまわり小さな鍋に
肉を移す。小さなさいの目か長方形に切った仔
牛の足と、バターで色よく炒めた小玉ねぎ 400
g、オリーヴ形に整形し固めに茹でたにんじん
600 g 肉のに入る。煮汁シノ
してから浮き脂を取り除く。これを肉の入った
鍋に注ぎ、弱火で火入れを仕上げる。
塊肉を皿に盛り、周囲につけあわせの野菜と仔
牛の足を種類ごとにまとめてブーケのように飾
る。ほどよく煮詰めた煮汁をかける。
羊のアリコ2)
Haricot de Mouton
1) à la mode(アラモード)元来は「流行の、おしゃれな」の意だが、この料理名については日本語の「プリンアラモード」と同様
に、本来の意味が失なわれて、料理名として定着していると考えるのがいいだろう。Boeuf à la bourgeoise(ブフアラブルジョ
ワーズ)ブルジョワ風とも呼ばれる。後者の料理名から考えると、産業革命の進展につれてブルジョワ階級が台頭してきた時
代、すなわ18 世紀末〜19 世紀初頭の「流行」と見ることも出来なくはないが、その後も料理内容にほぼ変化がないままこ
の名称で作られ続けているので、上述のように料理名本来の意味は失なわれていると見るべき。牛イチボ肉の塊と小玉ねぎを
用いるこの料理の原型とも言えるべきものは 18 世紀ムノン『ブルジョワ料理』に見出せるが,料理名に「ア・ラ・モード」の
表現はない。一方、同じく 18 世紀マラン『食の贈り物』には「ブフ・ア・ラ・モード」の料理名が見られる。カレーム『19
紀フランス料理』の「ブフ・ア・ラ・モード ブルジョワ風」は『ル・ギード・キュリネール』のものと非常に近い内容であ
り、遅くともカレームの時点で料理としてほぼ完成していると考えられる。
2) haricot(アリコ)は現代フランス語ではもっぱら、いんげん豆、さやいんげんを意味するが、中世フランス語においてはある
種の「煮込み料理」を意味した。14 世紀末に成立されたとされる手稿本『ル・メナジエ・ド・パリ』における「羊のアリコ」
のレシピには当然ながらいんげん豆は使われていない。そもそもいんげん豆はアメリカ大陸原産なので、フランスに伝播して
広まるのは 16 世紀以降のこと。にもかかわらず、かつて豆の代表であったえんどう豆が現代ではもっぱら若どりのプチポワ
での利用が中心となった一方で、いんげん豆は若どりのさやいんげんも乾燥豆、さらに半乾燥のものも非常に好まれる食材と
なっている。
デザート v
豚ばら肉の塩漬け 250 g は大きめのさいの目に
切っでし、20 とと
ドでこんがり炒める1)これらを取り出して、
じ鍋で羊の胸肉、首肉、肩肉をラグー用に切っ
たもの 2 kg を色よく焼く2)
肉の表面ががこんがり焼けたら、鍋の脂の半分
は取り出す。潰したにんにく 3片と小麦粉 40 g
を加えてさらに加熱する。
1 L を注ぎ入れ、塩こしょうで調味し、ブー
ケガルニを加える。混ぜながら沸騰させた後
弱火で 30 分程煮込む。
肉を別の鍋に移して、先に炒めた塩漬け豚ばら
肉と小玉ねぎを加える。半ば火を通した状態の
白いんげん1 L を加える。先の煮汁を全体に
かけてやり、弱火のオーブンに入れて火入れを
仕上げる。
小さな陶製の器に入れて供する。
肥鶏 アルビュフェラ
Poularde Albuféra
フォワグラと大きめのさいの目に切ったトリュ
フを米と合わせ、肥鶏に詰め物する。肥鶏を
シェする。
皿に盛り、ソース・アルビュフェラを塗る。
周囲に次のものを盛り込む。くり抜きスプーン
で丸く抜いたトリュフ、同様に丸く整形した鶏
のクネル、小さめのマッシュルーム、雄鶏のロ
ニョン。これらのガルニチュールソース・ア
ルビュフェラであえておく。
赤く漬けた舌肉を鶏のとさか形に切って皿の縁
を飾る。
デザート
さくらんぼのジュビレ3)
Cerises Jubilée
大きさの揃った立派ななさくらんぼの種を抜
。シロップでやや低めの温度で火を通し4)
銀製の深皿に盛る。シロップを煮詰め、少量の
冷水で溶いたアロールート5)を加えてとろみを
付ける。比率はシロップ 3 dL に対してアロー
ルートがスプーン 1/2杯。もしくはグロゼイユ
のジュレを用いる。
さくらんぼにとろみを付けたシロップをかけ、
デザートスプーン 1杯の温めたキルシュ酒を注
ぎ、提供直前に火を点ける。
タンバル6)・アーレンベルク7)
Timbale d’Aremberg
バターを塗ったシャルロット型8)に、や固め
に作ったブリオシュ生地を敷き詰める。
四つ割りにしてバニラ風味のシロップで少し固
めに煮た洋梨とアプリコットのマーマレードの
層を交互に敷き詰めていく。
同じブリオシュ生地でタンバルに蓋をする。周
囲を軽く湿らせてからしっかり生地を貼り付か
せる。中央に、蒸気抜きの小さな穴を空けてお
く。中温のオーブンで約 40 分間焼く。
ら、
り、マラスキーノ酒9)風味のアプリコットソー
スをかけて供する。
アプリコットソース
Sauce à l’Abricot
よく熟したアプリコットを目の細かい網で裏
る。
ドを使う。28°Bé のシロップでアプリコットの
ピュレをのばす。沸騰させて浮いてくる泡を丁
寧に取り除く。スプーンをコーティングする程
度の漉さになったら火から外し、アーモンドミ
ルクかマデイラ酒、マラスキーノ酒で香り付け
する。(pp.793-794)
1) faire revenir(フェールルヴニール)
2) risoller(リソレ)油脂を熱した鍋などで肉の表面にこんがり焼き色を付けること。≒ faire revenir
3) 戴冠式、の意。さくらんぼに Napoléon という品種があるので、それを使って Jubilée de Napoléon と洒落た名称にすることも
可能だろう。
4) pocher(ポシェ)
5) 南米産のクズウコンから採れる良質のでんぷん。一般的にはコーンスターチで代用する。
6) もとは「小太鼓」を意味する語で、円筒形の仕立てによく命名される。あくまでも形状を指す言葉であって、料理やパティス
リの種類を意味しているわけではないことに注意。また、野菜料理を盛る深皿もタンバルと呼ばれ、混同しやすいので注意。
7) Arenberg とも綴り、現在のドイツ東部の地名。または 18 世紀末までアーレンベルク公国を治めていたアーレンベルク家の
こと。
8) 型の口(上部)がやや広くなった円筒形の型。側面に刻み模様や波形模様の付いたものもある。
9) marasquin(マラスカン)。マラスカという品種のさくらんぼで作ったリキュール。
vi
もう 20 年も前のことだ。本書の着想を我が尊敬する師、今は亡きユルバン・デュボ
1)先生に話したのは。先生は
ぜ ひ
是非とも実現させなさいと強く勧めてくださった。けれ
ども忙しさにかまけてしまい
ようや
1898 年になって、フィレアスジルベール2)
話し合い協力をとりつけることが出来た。ところがまもなく、カールトンホテル開業
のために私はロンドンに呼び戻され、その厨房の準備や運営に忙殺されることとなっ
3)。本書の計画を実現させるために落ち着いた時間を取り戻さねばならなくなってし
まった。
1898 年から放置したままだった本書に再び着手出来たのは、多くの同僚たる料理人
諸君の助力と、友人でもあるフィレアス・ジルベール君とエミール・フェチュ4)君の献
身的な協力を得られたからに他ならない。この一大事業を完成させることが出来たの
は、ひとえに皆の励ましと、とりわけ辛抱強く、粘り強く仕事を手伝ってくれた二人の
共著者5)のおかげだ。
私が作りたいと思ったのは立派な書物というよりはむしろ実用的な本だ。だから、執
筆協力者の皆には、作業手順を各自の考えにもとづいて自由にレシピを書いてもらい
私自身は、40 年にわたる現場経験に即して、少なくとも原理原則、料理における伝統的
基礎を明確に説明するのに専念した6)
本書は、かつて私が構想したとおりとは言い難い出来だが、いずれはそうなるべく努
めねばなるまい。それでもなお、現状でも料理人諸君にとって大いに役立つものと信じ
ている。だからこそ、本書を誰にでも、とりわけ若い料理人にも買える価格にした7)
1) Urbain Dubois (18181901)19 世紀後半を代表する料理人。
2) Philéas Gilbert (18571942)19 世紀末から 20 世紀初頭に活躍した料理人。料理雑誌「ポトフ」を主宰した。
3) エスコフィエはセザール・リッツの経営するホテルグループにおいて料理に関わる重要な役割を一手に担っていた。1890 年〜
1897 年にかけてロンドンのサヴォイホテルの総料理長を勤めた後、1898 年にはパリのオテル・リッツの、1899 にはロン
ンのカールトンホテルの開業に携わり、1920 年までカールトンホテルで総料理長を務めた。
4) Emile Fétu 生没年不詳。
5) ジルベールとフェチュを指しているが、初版にはこの二人の他にも共著者として4人の名が挙げられている。第二版以降は共
著者としてジルベールとフェチュの名しかクレジットされていない。第二版は初版から構成も含め大幅な改訂が行なわれた。
その作業を実際に行なったのがジルベールとフェチュだったために、他の共著者のクレジットが抹消されたと考えられる。な
お、現行の第四版にはエスコフィエの名しかクレジットされていない。
6) このとおりであれば、具体的なレシピの執筆者は上記のように複数おり、エスコフィエ自身は各章、各節における「概説」に
相当する部分と「原注」を担当したことになる。とはいえ、第二版以降については、口頭によるコメントの「聞き書き」的なも
のが含まれている可能性が。原書の文体における「ゆらぎ」から推測されよう。つまり、エスコフィエは本書の制作にあたっ
ても、やはり「総料理長」であった、と考えていい。そしてそのことはエスコフィエの偉業である本書の価値をいっかな減ず
るものではない。
7) 1903 年の初版の売価は、フランス国立図書館蔵のものの表紙には、フランス国内で 12 フランと記したシールが貼られている。
また、リーズ大学図書館蔵の第二版にも同様に国内売価 12 フランのシールが貼られている。1912 年の第三版も同じく 12
ランだった(フランス国立図書館蔵のものに価格を示すシールはないが、訳者個人蔵のものには 12 フランと記されたシール
が貼られている)。なお、辻静雄は「1903 年の初版発売当時は、800 ページでたった 8フラン、全く破格の値段だった「エ
スコフィエ 偉大なる料理人の生涯」『辻静雄著作集』、新潮社、1995 年、729730 頁)と記しているが、その数字の典拠は
示されていない。現在と当時の通貨価値、物価の違いが分りにくいため、この「破格に安い」という言葉にはやや疑問が残る
だろう。1900 年当時の書籍広告において『料理の手引き』初版と同様の八折り版 800 ページの料理書が、フランス装 10
ン、厚紙の表紙のものが 11 フランとあるため、初版の 12 フランという価格は、むしろ料理書としては一般的だったと考えら
れる。つまり、豪華本ではなく、普通に利用できる料理書だということを強調しているに過ぎないと解釈すべきところだろう。
なお、八折り判というのは書籍の大きさを表す用語で、概ね縦 2025 cm、横 1216 cm 程度。この序文でことさらに「実用
vii
もそも若い料理人諸君にこそこの本を読んで
もら
貰いたい。今はまだ初心者であったとして
も、20 年後には組織のトップに立つべき人材なのだから。
私はこの本を豪華な装丁の1)、書棚の飾りのごときにはして欲しくない。そうではな
く、いつでも、どんな時でも手元に置いて、分からないことを常に明らかにしてくれる
めいゆう
盟友として欲しい。
本書には五千を越える2)レシピが掲載されているが、それでも私は、この教本が完全
だとは思っていない。たとえ今この瞬間に完璧であったとしても、明日にはそうではな
いかも知れぬ。料理は進化し、新しいレシピが日々創案されている。まことに困ったこ
とだが、版を重ねる毎に新しい料理を採り入れ、古くなってしまったものは改善せねば
なるまい。
ユルバンデュボワ、エミール・ベルナール3)両氏の著作4)に昔から慣れ親しみ、その
巨大な影がなおも料理の地平を覆い尽している現在、私としては本書がその後継になっ
て欲しいと思っている。カレーム以後、最高の料理の高みに逹した二人に対し、ここで
あらためて心から敬意を表させていただきいと思う。
調理現場を取り巻く諸事情により、私は、デュボ、ベルナール両氏がもたらした
サービス(給仕)面での革新5)に対し、こんにちのようなとりわけスピードが重視され
る目まぐるしい生活リズムに合わせて、より大きな変更を加えざるを得なかった。そも
そも物理的理由から、料理を載せる飾り台6)を廃止して、シンプルな盛り付けにする新
たなメソッドと新たな道具を考案する必要があったのだ。デュボワ、ベルナール両氏が
推奨した壮麗な盛り付けを私自身が行なっていた頃はもちろん、今なお二方の思想には
まったく共感している。冗談でこんなことを言っているのではない。しかし、カレーム
を信奉する者たちは、装飾の才があるが
ゆえ
故に、時代にもはや
そぐ
似わなくなってしまった作
品に対して改良を加えようとはしなかった。時代に合わせて改良することこそまさに重
要ななのに、だ。本書で奨励している盛り付けは、少なくともそれなりの期間、有用で
あり続けると思う。全ては変化する。姿を変える。それなのに、装飾芸術の役割が変化
しないとなどと主張するとは
もうまい
蒙昧ではないか。芸術は流行によって栄えるものだし、流
行のように移ろいやすいものだ。
性」や入手しやすい価格であることが強調されているのは、何度も言及されているデュボワとベルナールの名著『古典料理
が四折り判(概ね縦 45 cm、横 30 cm)の豪華本であったことを意識していたためとも推測されよう。
1) かつてフランスでは、大判の紙の両面に印刷して折ったものを糸で綴じただけの状態(いわゆる「フランス装」で販売された
本を、書店で買い求めた者が別途、業者に製本、装丁の依頼をして自分の好みの想定にさせることが一般的に行なわれていた。
2) 初版、第二版は「五千近い」。第三版になってようやくこの表現になった。
3) Emile Bernard (18271897)。クラシンスキ将軍の料理人を務めた。
4) デュボワとベルナールの共著は他にもあるが、ここでは『古典料理』1856 年)を指している。
5) 19 世紀後半に一般的となった「ロシア式サービス」のこと。中世以来、格式の高い宴席では、卓上に大皿の料理が一度に何種
も並べられ、食べる者がそれぞれ好きなように取り分けていた。そして卓上の料理がほぼなくなると、また何種類もの皿が卓
上に並べられる、というのが数回繰り返された。19 世紀中頃から、献立を食べる順に1種ずつ、大皿料理の場合は食べ手に見
せて回ってから、給仕が取り分けて供する方式に変えたものがロシア式サービスである。これと対比するかたちで旧来の方式
をフランス式サービスと呼ぶようになった。ロシア式サービスでは、食卓に大皿を並べない代わりに、花を飾りナフキンを美
しく折るなどの工夫により卓上も洗練されたものとなっていった。19 世紀パリに駐在していたロシア帝国の外交官クラーキン
が提唱したと言われている。デュボワとベルナールの『古典料理』序文において詳述されている。
6) socle ソークル。パンや米、ジュレなどで作った、料理を盛り付けるために銀の盆の上に据える飾り台。カレームの時代、つま
19 世紀前半にはその装飾に凝ることが多かった。食べもので作られてはいるが、料理の一部ではなく、あくまで装飾的要素
でしかなかった。この飾り台はロシア式サービスの時代になっても豪華絢爛たる宴席においては重要なものとして扱われてお
り、デュボワとベルナール『古典料理』でも相応のページ数を割いて説明がなされている。
viii
だが、カレームの時代にはこんにちと同じく
すで
既にあり、料理が続く限りなくならない
だろうものがある。それが
フォンド キュイジーヌ
礎だ。そもそも、料理が見た目にシンプルになって
も料理そのものの価値は失なわれないが、その逆はどうだろう? 人々の味覚は絶え間
なく洗練され続け、それを満足させるために料理そのものも洗練されることになる。こ
んにちの余剰活動が精神におよぼす悪影響に打ち
克つためには、料理そのものがいっそ
う科学的な、正確なものとなるべきなのだ。
その意味で料理が進歩すればする程、我々料理人たちにとって19 世紀、料理の
く末に大きく影響を与えた三人の料理人の存在は大きなものとなるだろう。カレームと
デュボワ、ベルナールはともすれば技術的側面ばかり評価されるが、料理芸術の基礎に
おいて何よりも優れているのだ。
既に物故した名だけ挙げるが、確かにグフェ1)ファーヴル2)エルーイ3)ルキュレ4)
はとても晴らい著作をした。が、『古典料理』いう
きたい
稀代の名著
ひけん
比肩し得る
ものはひとつとしてない5)
料理人諸君に、新たに本書を使っていただくにあたり、言うべきことがある。いろい
ろな料理書、雑誌を読み散らかすのもいいが、偉大な先達の不朽の名著はしっかり読み
込むように、と。
ことわざ
諺にあるように「知り過ぎることなはい」のだ。学べば学ぶ程さら
に学ぶべきことは増えていく。そうすれば、柔軟な思考が出来るようになり、料理が上
達するためのより効果的な方法を知ることも出来るだろう。
本書を
じょうし
上梓するにあたって
ただ
唯ひとつ望むこと、切に願う
ゆいいつ
唯一のことは、上記の点にお
いて、本書の対象たる読者諸君が我が
げん
言に耳を傾け、践するさまを見ることに尽きる。
A. エスコフィエ
1902 11 1
1) Jules Goué (18071877)著書多数。主著『料理の本1867 年)は前半が家庭料理、後半が高級料理(オーキュイジーヌ)
2部構成になっており、レシピもまず材料表を掲げた後に調理手順を説明するという現代の書き方に近く、挿絵も多く分り
やすい。この『料理の手引き』とともに 19 世紀後半のフランス食文化史における名著のひとつ。19 世紀前半からのヴィアー
ルやオドが版を内容を増補しながら版を重ねたのに対して、この本は再版の際もほとんど異同がない点もまた特徴のひとつ。
2) Joséph Favre (18491903)スイス生まれの料理人で、パリ、ドイツ、イギリス、ベルギー等において活躍した。著書『料理お
よび食品衛生事典』(18841895 )。この『事典』に収録されているレシピの数は 5,531 であり(番号が振られている)、エス
コフィエがレシピ数 5千という表現にややこだわりを示しているように思われるのも、ほぼ同時代の出版物であるファーヴル
の『事典』を意識していた可能性はある。
3) Edouard Hélouis(生没年不詳)。イギリスのアルバート王配(ヴィクトリア女王の夫)18191861やイタリアのヴィットー
リオ・エマヌエーレ二世(18201878)に仕えたという。著書『王室の晩餐』(1878 )
4) 『実践的料理』1859 年)の著者 C. Reculet のこと。
5) デュボワ、ベルナールの『古典料理』を称揚するあまりにこのような表現になっていると思われるが、そもそもファーヴルの
著書は『事典』であって教本ではない。また、グフェ『料理の本』については、掲載レシピ数は少ないものの、記述の明快さ
と、技術の習熟度合いに合わせて家庭料理と高級料理(haute cuisine オートキィジーヌ)の二部構成にするなどの配慮から、
こんにちでも充分に料理の入門〜中級教本として高く評価出来るものだろう。
第二版序文 ix
第二版序文1)
ここに第二版を上梓するに至ったわけだが、二人の共著者による熱意あふれる仕事のおかげで、私
の強い期待をさらに越える本書の成功が約束されたも同然だろう。だからこそ、共著者両君および本
書の読者諸君に心からの謝辞を申しあげる次第だ。また、ありがたいことに、称賛の言葉を寄せてく
ださった方々と、貴重な批判をくださった方々にも御礼申しあげる。批判については、それが正当な
ものと思われる場合については、本書に反映させるべく努めさせていただいた。
かくも多くの人々に本書を受け入れていただけたことへの謝意を表するには、本書における技術的
な価値を高め、初版ではロジカルにレシピを分類しようとしたが故に生じた欠点を解消する他ないだ
ろう。それは、調理理論とレシピを損なうことなしに、本書の計画段階において簡単に済まさざるを
得ないと思われたテーマについて
あた
能う限り肉薄することでもある。私たちは本文の見直しをするとと
もに、多くのレシピを追加した。そのほとんどは調理法と盛り付けにおいて、こんにちの顧客のニー
ズを
かんが
鑑みて着想したものであり、そのニーズが正当かつ実現可能な範囲において、顧客への給仕の
ペースが日増しに加速していく傾向をも考慮に入れたものだ。こういった傾向は数年来まさしく際
立ってきているが
ゆえ
故に、我々としても常に気を配っておかねばならぬ。
「料理芸術」というものは、その表現形態において、社会心理に左右されるものだ。社会から受け
る衝撃に逆らわぬことも必要であり、
あらが
抗えぬことでもある。快適で安楽な生活がいかなる心配事にも
乱されることのないような社会であれば、未来が保証され、財をなす機会もいろいろあるような社会
であれば、料理芸術はたゆまぬことなく驚異的な進歩を遂げるだろう。料理芸術とは、ひとが得られ
る悦びのうちでもっとも快適なもののひとつに寄与しているのだから。
反対に、安穏とした生活の出来ぬ、商工業からもたらされる
あまた
数多の不安で頭がいっぱいになるよう
な社会において、料理芸術は心配事でいっぱいの人々の心のごく限られた部分にしか美味しさを届け
られない。ほとんどの場合、諸事という渦巻きに巻き込まれた人々にとって、食事をするという必要
な行為はもはや悦びではなく、辛い義務でしかないのだ。
斯くのごとき生活習慣は
なげ
嘆いていい、
いな
否、嘆くべきことなのだ。食べ手の健康という観点からも、
食べたものを胃が受け付けないという結果になるとしたら、それは絶対に生活習慣が悪いのだ。そう
いう結果を抑える力は私に出来る範囲を越えている。そういう場合に調理科学が出来ることといえ
ば、軽率な人々に
あた
能うかぎり最良の食べものを与えるという対症療法だけなのだ。
顧客は料理を早く出せと言う。それに対して私たち料理人としては、ご満足いただけるようにする
か、失望させてしまうことのどちらかしか出来ない。料理を早く出せという顧客の要求を拒む方法が
あるとするなら、それ以上の方法で顧客にご満足いただけるようにすることしかない。だから、私た
ちは顧客の気まぐれの前に折れざるを得ないのだ。これまで私たちが慣れ親しんできた仕事のやり方
では、これまでの給仕のスタイルでは、顧客の気まぐれに応えることが出来ぬ。意を決して仕事の方
法を改革すべきなのだ。だがひとつだけ、変えてはならぬ、手をつけてはならぬ領域がある。料理ひ
とつひとつのクオリティだ。それは、料理人にとって仕事のベースとなるフォンや事前に仕込んでお
1) この第二版序文は文体が初版序文と異なり、とりわけ前半部分については、いわゆる「悪文」と見なさざるを得ないものと
なっている。また、前半と後半でも文体の「ゆらぎ」のようなものが認められる。内容から判断するかぎり、エスコフィエ自
身の言葉であることは確かだが、末尾に署名がなく日付のみ記されていることも含めて考えると、ジルベールとフェチュによ
る「聞き書き」によって作成された可能性も完全には否定できないと思われる。
x
いたストック類がもたらすゆたかな風味に他ならぬ。私たちは既に、盛り付けの領域においては改革
に着手した。足手まといにしかならぬ多くのものは既に姿を消したか、いままさに消え去らんとして
いる。料理の飾り台1)、料理の周囲の装飾2)、飾り串3)などのことだ。この方向性は推し進められると
思う。これについては後述しよう。私たちはシンプルであるということを極限まで追究したい。それ
と同時に、料理の風味や栄養面での価値を増すことも目指している。料理はより軽い、弱った胃にも
優しいものにしたいと考えている。私たちはこの点にのみ尽力したい。料理において役をなさない大
部分はすっかり剥ぎ取ってしまいたいと考えているのだ。一言でまとめると、料理は芸術であり続け
つつも、より科学的なものとなるだろうし、その作り方はいまだ経験則に基づいただけのものばかり
であるが、ひとつのメソッド、偶然などに左右されない正確なものになっていくことだろう。
こんにちは料理の過渡期にある。古典料理メソッドの愛好者はいまなお多く、私たちもそれを理解
し、その思想に心から共感するところもある。だが、食事というものがセレモニーであり、かつパー
ティであった時代を懐しんでどうするというのだ? 古典料理がこんにちの美食家に至福の時を与え
るために力を発揮出来る場がどこにあるというのだ? いったいどうすれば、美食と宴の神コモス4)
捧げ物を供えるという幸せな機会を毎回得られるのだろうか? だから私たちは本書において、個人
的な創作よりむしろ伝統的なフランス料理のレシピ集として、こんにちの料理のレパートリーから姿
を消してしまったものも残すことに固執した。その名に値する料理人なら、機会さえ与えられたら王
侯貴族も近代の大ブルジョワもひとしく満足させるためには、知っておくべきものなのだ。時間のこ
となんぞ気にもせぬ穏かな美食家の方々にも、時こそ全てと言わんばかりの金融家やビジネスマンた
ちにも満足していただくために。だから、本書が新しいメソッドに偏ったものだという非難にはあた
らない。私はただ単に、料理芸術の進化の歩みをたどり、いまの時代に即しつつ、食べ手すなわち食
事会の主催者と招待客の皆様の意向を絶対的なものとして、それに従いたいと願っているだけなの
だ。食べ手の意向に対して私たち料理人は
こうべ
頭を垂れて従うことしか出来ぬのだから。
私たちは、料理の美味しさを損なうことなくより早く料理を提供できるような方法を、料理人各人
が自らの嗜好を犠牲にすることなしに探求すべく
いざな
誘うことこそが、料理人諸君にとって有益と信じて
いる。全体として、私たちのメソッドはまだまだ日々のルーチンワークに依存し過ぎているものだ
顧客の求めに応えるため、私たちは既に仕事のやり方をシンプルなものにせざるを得なかった。だ
が、残念ながらいまだ
みち
なか
半ばに過ぎぬと感じている。私たちは自己の信念をしっかり堅持しており、
どうしようもない場合にのみ自説を曲げることもある。だから、装飾に満ちた飾り台を廃止した一方
で、盛り付けに時間のかかる厄介で複雑なガルニチュールは残してある。こういったガルニチュール
を濫用することはガストロノミーの観点から言って、常に間違っているのは事実だが、残しておくべ
きものと思われる。それを求める顧客あるいは食事会主催者に絶対に従う必要のある場合はとりわけ
そうだ。ごく稀にとはいえ、料理の美味しさを損なうことなくそれらを実現可能なこともあるから
だ。時間と金銭、広くてスタッフの充実した会場、という 3つの本質的要素を最大限活用可能な場合
1) socle(ソークル)「序」p.ii、訳注 6参照。
2) bordure ボルデュール。本書においてもガルニチュールの扱いにおいてこの指示はあるが、19 世紀のものと比較するとかなり
シンプルな内容になっている。
3) hâtelet アトレ。一方の端に動物などの姿の装飾の施された銀製の串に、トリュフやクルヴェット ()などを事前に別の串
(ブロシェット)で焼いてからこの飾り串に刺し直し、それを大きな塊肉や丸鶏、大型の魚 1尾の料理に刺した。19 世紀初頭、
カレームの時代に全盛となり、その著書『パリ風料理』において詳述されている。19 世紀末まではこの装飾がなされることが
多かった。また、その飾り串そのものが美麗な装飾品であるためにコレクションの対象になっていた。
4) フランス語 Comus(コミュス)ラテン語では同じ綴りでコムスと読む。ギリシア、ローマ神話における、悦びと美食の神。18
世紀の料理本作家マランの主著は『コモス神の贈り物』がタイトル。
第二版序文 xi
のことだが。
通常の厨房業務においては、ガルニチュールをかなりシンプルな、せいぜい 34種の構成要素か
らなるものに減らさざるを得なくなっている。そのガルニチュールを添える料理がアントレであれル
ルヴェ1)であれ、羊肉料理であれ、家禽であれ魚料理であれ、そうせざるを得ない。そのようにし
て構成要素を減らしたガルニチュールは、素早い皿出しが要求される場合には必ず、ソースと同様に
別添で供するのがいい。その場合、盛り付けは奇抜というくらいシンプルなものとなるが……メイン
の料理はより冷めない状態で、より早く、よりきれいに供することが可能になる。給仕が料理を取り
皿に分けてお客様に出すにせよ、お客様が大皿を自分たちで受け渡して取り分けるにせよ、サービス
担当者は安心して仕事が出来るし、そのほうが容易だ。メインの大皿が山盛りになることはないし
その上に盛り付けられたいろいろな素材のガルニチュールも簡単に取ることが出来るからだ。
こんにちの他のシステムだと、料理を載せるための台や装飾のための飾り串を作り、さらに料理の
周囲にガルニチュールを配置するのに、看過出来ぬ程の時間を要していた。こういう盛り付けという
のは、料理そのものがさして大きくないものであっても、食べ手の人数が少ない場合であっても、大
面積の皿を用いる必要があった。だから、お客様が料理を自分たちで受け渡して取り分ける必要が
ある場合などは、お客様にとっても、サービス担当者にとってもまことに窮屈なものであった。これ
は、複雑な構成のガルニチュールの持つ大きな欠点のひとつとして無視できないことだ。他の欠点と
いうのは、あらかじめ盛り付けを行なうことによって美味しさが減じてしまうこと、食べ手が少人数
の場合には必然的に、料理を見せて周る間に冷めてしまうこと、などがある。こういう愉快とは言え
ぬことの結果は何とも情けないことになる。つまり、お客様に大皿に盛り付けた料理をお見せするの
はほんの一瞬だけ、お客様は多少なりとも豪華で精密に盛り付けられた料理をちらりと見る暇がある
かないか、ということだ。昔日のごとき豪華壮麗な料理を供することの可能な場所もこんにちでは少
なくなってきたが、それ以外のところでもこういった悪習が頑固なまでに続けられているというの
は、それが昔からの習慣だということでしか説明がつかぬ。
給仕のスピードを容易に上げるために、大きな塊肉の料理でない場合には毎回、下の図のごとき四
角形の深皿を出来るだけ用いるよう是非ともお勧めしたい。温かい料理でも、冷製の料理でも、この
皿は非常に優れたものであるから、その目的において厨房に備えておくべきものとして他の追随を許
さないと言える2)
繰り返しになるが、本書が新しい方法を勧めているからといって、偏見で古典的なものを悪いと断
じているのでは決してない。私たちは、料理人諸君に、顧客たちの生活習慣や味の好みを研究し、自
らの仕事をそれらに適合させるよう
いざな
誘いたいと思っているだけなのだ。我々料理人にとって高名な師
とも呼ぶべきカレームは、ある日、同業たる料理人のひとりとおしゃべりをしていた際に、その料理
1) 19 世紀前半まで主流であった「フランス式サービス」つまり、一度に多くの料理の皿を食卓に並べるという給仕方式におい
て、ポタージュを入れた大きな深皿が空くと、それを給仕が下げて、豪華な装飾を施した大きな塊肉の料理がポタージュを置
いてあった場所に据えられた。これを relevé ルルヴェ(交代したもの、の意)と呼んだ。エスコフィエの時代にはフランス式
サービスではなくロシア式サービスに移っており、大きな塊肉の料理や大型の魚 1尾まるごとを大皿で出し、給仕が切り分け
て配膳するようになっていたが、名称はそのまま残った。Entrée アントレ(もとは「入口」の意)は現代において「前菜」の意
味で用いられているが、食卓に大皿で並べられた肉料理(場合によっては魚料理も含む)の総称としてこの語が用いられてい
た。本書はそれを踏襲している。本書においてルルヴェおよびアントレに分類されている料理の多くは現代においてコース料
理の「メイン」に相当するものが多く、実際、英語ではコース料理のメインのことを現在でもこの語で表わすことが多い(前
菜は appetizer アペタイザーと呼ぶ)
2) この段落は、初版の序文の後にある「盛り付け方法をシンプルにすることについて」という挿絵付きの節の内容を短かく縮め
たために、ややわかりにくいものになっている。ただし、第二版および第三版においては序文の最後に皿の挿絵が添えられて
いる。
xii
人が仕えている主人の洗練さに欠けた食事の習慣や下卑た味覚を苦々しげに語るのを聞かされたとい
う。その食事の習慣と味覚に憤慨して、自分が人生をかけて追究してきた知的な料理の原則を曲げて
まで仕え続けるくらいなら、いっそ辞めてしまいたいと思っている、と。カレームはこう答えた。「そ
んなことをするのは君のほうが間違っているよ。料理において原則なんていくつも存在しないんだ
あるのはひとつだけ、仕えているお方に満足していただけるか、ということだけなんだよ」と。
今度は我々がその答を考える番だ。自分たちの習慣やこだわりを、料理を出す相手に押しつけるな
どと言い張るとしたら、まったくもって馬鹿げたことだ。我々料理人は食べ手の味覚に合わせて料理
することこそが第一でありもっとも本質的なことなのだと、私たちは確信している。
私たちがかくも安易に顧客の気まぐれにおもねったり、過度なまでに盛り付けをシンプルにするせ
いで、料理芸術の価値を下げ、単なる仕事のひとつにしてしまっている、と非難する向きもあるだろ
う。……だがそれは間違いだ。シンプルであることは美しさを排するものではない1)
ここで、本書の初版において盛り付けについて述べた部分を繰り返すことをお許しいただきたい。
「どんなにささやかな作品にも自らの最高の印をつけられる才というのは、その作品をエレガント
で歪みのないものに見せられるわけで、技術というものに不可欠だと私は信じている。
だが、職人が美しい盛り付けを行なうことで自らに課すべき目的とは、食材を他に類のない方法で
節度をもって用いつつ大胆に配置することによってのみ、実現されるのだ。未来の盛り付けにおいて
絶対に守るべきこととして、食べられないものを使わないこと、シンプルな趣味のよささこそが未来
の盛り付けに特徴的な原則となるだろうことを、認めるべきなのだ。
そのような仕事を成し遂げるために、能力ある職人にはいくつもの手段がある。トリュフ、マッ
シュルーム、固茹で卵の白身、野菜、舌肉などの食べられるものだけを用いて、素晴らしい装飾を組
み合わせ、無限に展開できるのだ。
王政復古2)料理人たちによって流行した複雑な盛り付けの時代は終わった。だが、特殊な例に
なるが、古い方法で盛り付けをしなければならない場合もあり、そういう時は何よりもまず、盛り付
けにかかる時間と利用できる手段を見積らなくてはならない。土台の形状を犠牲にしなくても、装飾
の繊細さを忘れなくても、風味ゆたかな素材を軽んじたり劣化させてしまっては、価値のないものに
しかならないのだ」
以上の見解はずっと変わっていない。料理は進歩する(社会がそうであるように)。だが常に芸術
であり続けるのだ。
例えば、1850 年から人々の生活習慣、習俗が変化したことを皆が認めるにやぶさかでないように、
料理もまた変化するのだ。デュボワとベルナールの素晴しい業績は当時のニーズに応えたものだ。だ
が、たとえ二人がその著書と同じく永遠の存在であったとしても、彼らが称揚した形態は、料理の知
識として、我々の時代の要求に応えうるものではない。
私たちは二人の名著を尊重し、敬愛し、研究しなくてはならない。それはカレームとともに、料理
人の仕事の
いしずえ
礎たるものだ。だが、書いてあることを盲目的に真似るのではなく、私たち自身で新たな
道を切り
ひら
拓き、私たちもまたこの時代の習俗や慣習に合わせた教本を残すべきと考える次第だ。
1907 21
1) この序文における名句のひとつ。ただし、エスコフィエの時代における「シンプル」とポストモダン以降の時代であるこんに
ちの「シンプル」はもはや具体的な意味がまったく違うことに留意。もちろん、理念として普遍的な価値を持つ名句であるこ
とは確かだろう。
2) 1814 年ナポレオンが退位して国外へ亡命、ルイ 18 世を戴く王政へ回帰した時期。1830 年まで続いたが 7月革命でブルボン家
は断絶し、その後オルレアン朝による七月王政が 1848 年まで続いた。
第三版序文 xiii
第三版序文
『料理の手引き』第三版を同業たる料理人諸賢に向けて上梓するにあたり、絶えず本書を好意的
支持してくださったことと、多くの方々から著者一同にお寄せくださった励ましのお言葉に対し、あ
らためて深く御礼申しあげる次第だ。
第二版序文の内容につけ加えるべきことは何もない。というのも、第二版序文で料理という仕事に
ついて申しあげたことは、1907 年当時も今も変わっていない事実だからだし、今後も長くそうであり
続けるだろう。とはいえ、この第三版は内容を精査し、かなりの部分を改訂してある。かつては予測
でしかなかったことを実証し、この『料理の手引き』初版の序文においてエスコフィエ氏1)が以下の
ように書かれた約束も果せたと思う。「本書には五千近くもの2)レシピが掲載されているが、それでも
私は、この教本が完全だとは思っていない。たとえ今この瞬間に完璧であったとしても、明日にはそ
うではないかも知れぬ。料理は進化し、新しいレシピが日々創案されているのだ。まことにもって不
都合なことだが、版を重ねる毎に新しい料理を採り入れ、古くなってしまったものは改良を加えねば
なるまい。
この言葉が、前回の第二版から 300 ページを増やしたことの説明となっているわけで、この新版で
いくつかの変更を我々が必要と考えた理由でもある。
1. 判型の変更……あえて判型を大きくすることで、より扱いやすいものとしたこと3)
2. 巻末の目次の組みなおし……当初は料理の種類別であったが、本書全体の項目をアルファベット順に
まとめたこと4)
3. 時代遅れになったと思われるレシピを相当数削除し、その代わりとしてこの数年の間に創案され好評
を博したレシピを追加したこと
既に大著であって本書にこれらの変更を加えるために、我々は第二版の巻末に付されていた献立の
ページを削除せざるを得なかった。
献立についても内容を一新し、多くの献立例を追加して『メニューの本』という独立した書籍と
して、この第三版と同時に刊行する予定となっている。この『メニューの本』において我々は献立と
その説明文はもちろんのこと、大規模な厨房における日々の業務配分を示す表を入れておいた。
このように別冊とすることで、献立の作成という非常に重要な問題を適切に展開し、ゆとりを持っ
て論じることが可能となったわけだ。
この新刊『メニューの本』は料理人諸賢だけではなくメートルドテル、食事施設の責任者に必携の
ものとなった。さらには必要なものを奇抜なまでに単純化してしまう家庭の主婦にとっても必携とな
ろう。我々は上記の改良点が、これまで多くの好意的見解をお寄せくださった料理関わる皆様方に
好意的に受け容れていただけると信じている。また、料理芸術の栄光のもと未来に続くモニュメント
を建てるべく努めた我々のささやかなる尽力が、料理芸術に利をもたらさんことを信じる次第だ。
1912 51
1) この表現から、第三版序文がエスコフィエ自身ではなく、フィレアス・ジルベールかエミール・フェチュのいずれか、あるい
は二人によって書かれたと判断される。
2) 初版および第二版では「五千近い」となっており、第三版で「五千以上」と表現が変更された。
3) 初版および第二版はいわゆる「八折り版」約 21.5 cm×13.5 cm であったのに対し、第三版は約 24 cm×16 cm、つまり現代の B5
版よりほんの少し小さめの判型。
4) 原文では Table des Matière「目次」とあるが、これは巻頭の章を示す目次のことではなく、巻末の「索引」のこと。
xiv
第四版序文
『料理の手引き』第三版刊行当時(1912 5月)から後、他の職業、産業と同様に料理界もまた大
いなる危機に見舞われた1)。こんにちもなお料理は厳しい試練にさらされている。しかしながら、料
理界はその試練に耐えてきたし、戦後のこの辛い時期に終止符を打ち、料理界がさらに前進し始める
のもさして遠いことではないと信じている。だが、目下のところ、あらゆる食材の異常なまでの高騰
により、料理長諸賢が責務を果すことがひどく難しくなっている。料理長がその責務を果すというこ
との困難さを経験上よく知っているからこそ、今回の版において我々は、多くのレシピ、とりわけガ
ルニチュールについて、その本質的なところを曲げることなしに、よりシンプルなものにすることに
こだわった。
さらに、もはやあまり興味を持たれないであろうレシピは全て削除して、その代わりに近年創案さ
れたレシピを収録することとした。
したがって、料理人諸賢および料理に関心を持つ皆様方に向けてこの『料理の手引き』第四版を上
梓するにあたり、旧版同様、皆様に温かく受け容れていただけると信じる次第である2)
1921 1
1) 第一次世界大戦(19141918)による社会的影響を指している。フランスは戦中から戦後にかけて激しいインフレに見舞われ
た。なお、この第四版から出版社がそれまでのラール・キュリネールからフラマリオン社に変わった。
2) 原書の文体から、この序文も第三版序文と同様に、ジルベールとフェチュによって書かれた可能性も考えられる。
【参考】盛り付けをシンプルにするということ(初版のみ) xv
【参考】盛り付けをシンプルにするということ(初版のみ)
本書では、かつては料理の盛り付けによく用いられた飾り串1)縁飾り 2)クルトン3)、チョップ花4)などを使
う指示がほとんど出てこない。著者としては、盛り付け方法を近代化すると同時に、ほぼ完全に上記のものども
を削除しなくしてしまいたいとさえ考えたくらいだ。
我らが先達が考えていたような盛り付けには、長所がたったひとつしかない。皿を荘厳に、魅力的な姿にする
ことで、料理を味わう前に、食べ手の目を楽しませ、喜んでいただくということだ。
だが、そうした盛り付けの作業は複雑で難しいものであり、かなりの時間を必要とする。比較的少人数の宴席
でないかぎりは、こうした盛り付けは事前に用意しておく必要がある。そのようにして作られた料理は、それを
置いておく場所のことを考えに入れないとしても、必ずといっていい程、冷めてしまっている。また、料理を載
せる台や縁飾り、飾り串に費す時間も考えなくてはならないし、そういった装飾にかかる費用も考えなくてはな
らない。忘れてはならないことだが、そのように装飾した皿の見た目の調和がとれている時間というのは、その
皿をお客様にお見せする間だけなのだ。メートルドテルのスプーンが料理に触れるやいなや、かくも無惨な姿と
なりお客様の目には不快なものとなってしまう。こういう不都合はなんとしても改善しなければならなかった
のだ。
ここで図に示すような四角形の皿を採用したことで、上記のような問題は解決したと考えている。この皿はパ
リのリッツホテルで初めて用いられ、ロンドンのカールトンホテルにおいて正式に採用されることとなったもの
だ。この皿を用いることの利点は絶大で、これを用いない盛り付けなどもはや考えられない程だ。この皿は場所
をとらず、皿の内側に盛り付けられた料理は冷めることがない。蓋との距離が近いから保温されているわけだ。
魚や肉の切り身は上に重ねて盛るのではなく、ガルニチュールとともに並べて盛り付けることが出来る。そうす
ることで、最初に給仕されるお客様から最後に給仕される方まで、料理は美味しそうな見た目を保つことが出来
るのだ。その結果、クルトンやチョップ花、皿の上にしつらえる料理を載せる台や縁飾り、飾り串、昔の給仕で
用いられた面倒なクロッシュ5)は不要なものとなる。
この皿は冷製料理にもまた便利に使うことが出来る。周囲に氷を積み重ねて囲うか、薄い氷のブロックの上に
盛り付ければ、飾りには、ごく繊細なジュレだけていい。そのような繊細なジュレを使うのは昔の方法では不可
能だった。かくして、邪魔にさえ思える飾り台も、皿の底の飾りも、アトレも必要なくなった。ショフロワは 1
切れずつ並べて、周囲を琥珀色のとろけるようなジュレで満たしてやればいい。ムースはもはや「つなぎ」を
まったく、あるいはほとんど必要としない。こういうことが、冷製料理の芸術的な見た目を、豪華さや美しさと
いう点でいっかな失なうことなく可能となるのだ。
この新式の什器とそれによって実現可能となる料理に習熟することについて料理人諸君にお報せすることは
我々の義務であると考える。利点がとても大きいので、あえて申しあげるが、これを使うことが、給仕を素早く、
きれいに、経済的に、そして文句ないまでに実践的なものにする唯一の方法である。
【参考】初版はしがき
本書はある特定の階層の料理人を対象としているものではなく、全ての料理人が対象であるため、本書のレシ
ピは、経済的観点や料理人が実際に利用可能な手段に応じて、改変できるものだということを述べておきたい。
本書に収められたレシピはすべて、グランドメゾンでの仕事における原則にもとづいて組み立てて調整してあ
る。だから、より格下の店舗などでも、必然的に量を減らせば作れるだろうし、適価で提供出来るようにもなる
だろう。
ひとつひとつの項目において、いろいろな飲食を提供する形態を網羅するようにレシピを書くことが不可能
だったということは理解されよう。料理人自身が自主性をもって本書の内容を補えるし、そうすべきなのだ。あ
る者たちにとって非常に大切なことが、大多数の者にとってはそこそこの興味しか引かず、一般的に見たら無益
で幼稚に思われることだってあるのだ。
だから、本書に収録したレシピは最大の分量でまとめられたものを考えるべきであり、必要に応じて、各人の
判断および物理的に出来る範囲に合わせて、量を減らして作るといい。
1) hâtelet アトレ。
2) bordure ボルデュール。
3) 菱形やハート形にしたパンを揚げたもの。
4) papillote パピヨット。紙製で、骨付き肉の先端を飾るもの。
5) cloche 主に金属製で半球形の保温を目的としたディッシュカバー。
1
  ソース  
フォン、その他のストック
   
本書は実際に厨房で働く料理人を対象としたものだが、まず最初に料理のベースとして仕込んでス
トックしておくもの1)について少々述べておきたい2)。我々料理人にとって重要なものだからだ。
ここで述べる料理のベースとして仕込んでストックしておくものは、実際、料理の土台そのもので
あり、それなしでは美味しい料理を作ることの出来ない、まず最初に必要なものだ。だからこそ、料
理のベースとして仕込んでおくストックはとても重要であり、いい仕事をしたいと努めている料理人
ほどこれらを重視している。
これらは、料理において常に立ち戻るべき出発点となるものだが、料理人がいい仕事をしたいと望
んでも、才能があっても、それだけでいいものを作ることは出来ない。料理のベースを作るにも材料
が必要なのだ。だから、必要な材料は良質のものを自由に使えるようにしなければならない。
筆者としては、むやみな贅沢には反対だが、それと同じくらい、食材コストを抑え過ぎるのも良く
ないと考えている。そんなことをしていては、伸びる筈の才能の芽を摘んでしまうばかりか、意識の
高い料理人ならモチベーションの維持すら出来ないだろう。
どんなに優秀な料理人だって、無から何かを作り出すことは不可能だ。期待される結果に対して、
素材の質が劣っていたり量が足りないことがあれば、それでも料理人にいい仕事をしろと要求するな
ど言語道断である。
料理のベースとして仕込んでおくストックに関する重要ポイントは、必要な材料は質、量ともに充
分に、惜しげもなく使えるようにすることだ。
ある調理現場で可能なことが、別の調理現場では不可能な場合があるのは言うまでもない。料理人
の仕事内容は顧客層によっても変わる。到達すべき目標によって手段も変わるということだ。
そういう意味で、何事も相対的なものであるとはいえ、こと料理のベースとして仕込んでストック
すべきものに関しては絶対に外してはならないポイントがあるわけだ。組織のトップがこの点で出費
を惜しんだり、コスト面で過度に目くじらを立てるようでは、美味しい料理なんて出来るわけがない
のだから、現実に厨房を仕切っている料理長を批判する資格もない。そんなのが根拠のない言い掛か
りなのは明らかだ。素材の質が悪かったり、量が足りないのであれば、料理長が素晴しい料理を出せ
ないのは言うまでもあるまい。ぶどうの搾りかすに水を加えて醗酵させた安ワインを立派な瓶に詰め
てしまえば高級ワインになると思う程に馬鹿げたことはないのだ。
料理人は、必要なものを何でも使っていいなら、料理のベースとして仕込んでおくストックにとり
わけ力を入れるべきであり、文句のつけようのない出来になるよう気を使うべきだ。そこに手間隙か
けていればそれだけ厨房全体の仕事がきちんと進むのだから、注文を受けた料理をきちんと作れるか
どうかは、結局のところ、料理のベースとなる仕込み類にどれだけ手間
ひま
隙をかけるかということな
のだ。
1) 本書での fonds の語は fond(基礎、土台)fonds(資産、資本)そして料理用語として一般に用いられているフォン、のトリプ
ルミーニングになっている。そのまま「フォン」と訳したいところだが、日本語の場合「出汁」としての意味合いが強いため、
本文中では分りやすさを重視してやや冗長に「料理のベースとして仕込んでストックしておくもの」のように訳している。
2) この部分は経営者に向けて書かれているようにも読めるが、エスコフィエの時代以降、料理人がオーナーシェフとして経営に
携わるケースが激増したことを考えると、その先見の明に驚かざるを得ない。
2I.  ソース  Sauces
主要なフォンとストック
   
料理のベースとして仕込んでおくべきものは主として……
コンソメ・サンプルとコンソメ・ドゥーブル
茶色いフォン、白いフォン、鶏のフォン、ジビエのフォン、魚のフォン……これらはとろみを付けた
ジュ、基本ソースのベースになる
フュメ、エッセンス……派生ソースに用いる
グラスドヴィアンド、鶏のグラス、ジビエのグラス
茶色いルー、ブロンドのルー、白いルー
基本ソース……エスパニョル、ヴルテ、ベシャメル、トマト
肉料理用ジュレ、魚料理用ジュレ
以下も日常的に使う料理のベースとして仕込んでおくものとして扱う。
ミルポワ、マティニョン
クールブイヨン、肉および野菜用のブラン
マリナード、ソミュール
肉料理用ファルス、魚料理用ファルス
ガルニチュールに用いるアパレイユ、など……
本書は上記を順に説明していく構成にはなっていない。グリル、ロースト、グラタン等の調理技法
についても順を追っていくわけではない。料理の種類ごとに一定の位置、つまりは関連の深い料理の
章の冒頭において説明していくことになる。
そのようなわけで、本書においては以下のようになる……
フォン、フュメ、エッセンス、グラス、マリナード、ジュレの説明…… 1章 ソース
コンソメおよびそのクラリフィエ、ポタージュの浮き実についての説明……3章ポタージュ
ファルスとガルニチュール用アパレイユの作り方……2章ガルニチュール
クールブイヨン、魚料理用ファルス等……6章魚料理
グリル、ブレゼ、ポワレの調理理論……7章 肉料理
基本ソース 3
基本ソース
   
およびそれらを組み合せたり煮詰めるなどの方法で作る派生ソース
イギリス風ソース(温製および冷製)
いろいろな冷製ソース
ブール・コンポゼ(ミックスバター)
マリナード
ジュレ
概説
ソースは料理においてもっとも主要な位置にある。フランス料理が世界に冠たるものであるのもひ
とえにソースの存在によるのだ。だから、ソースは出来るかぎり手間をかけ、細心の注意を払って作
るようにしなければならない。
ソースを作るうえでその基礎となるのが何らかの「ジュ」である1)すなわち、茶色いソースは「茶
色いジュ」(エストゥファード)から作る。ヴルテには「澄んだジュ(白いフォン2))を使う。ソース
を担当する料理人はまず第一に、完璧なジュを作るところから始めなければならない。キュシー侯
3)が言うように、ソース担当の料理人は「頭脳明晰な化学者4)でありかつ天才的なクリエイターで、
卓越した料理という建造物のいわば大黒柱たる存在」なのだ。
昔のフランス料理5)では、素材に串を刺してあぶり焼きするローストを別にすれば、どんな料理も
「ブレゼ」か「エチュヴェ」のようなものばかりだった。だが、その時代には既に、フォンが料理
いう大建築の丸天井の
かなめ
要だったし、材料コストが重視されるこんにちの我々と比べたら想像も出来な
いくらい贅沢に材料を使ってフォンをとっていたのだ。実際、アンヌ・ドートリッシュ6)がスペイ
からルイ 13 世に嫁いだ際に随行してきたスペインの料理人たちによってフランス料理にルーを用い
る方法が伝えられたが7)、当時はほとんど看過された。ジュそれ自体で充分だったからだ。ところが
時代が下り、料理におけるコストの問題が重視されるようになった。ジュはその結果、貧相なものに
なってしまった。その美味しさを補うものとして、ルーを用いて作るソース・エスパニョルが欠くべ
からざる存在となった。
ソース・エスパニョルはその完成度の高さゆえに成功をおさめたわけだ。だが、すぐに当初の目的
を越えた使い方をされるようになった。19 世紀末には本当にこのソースが必要な場合以外にも使わ
れたわけだ。ソース・エスパニョルの濫用によって、どんな料理も固有の香りのない、全部の風味の
混ざりあったのっぺりとした調子のものばかりになってしまった。
ようやく近年になって、料理の風味がどれも同じようなものであることに批判が集まってきて、そ
の結果として激しい揺り戻しが起きたのだった。グランドキュイジーヌでは、透き通ったような薄い
色合いでしかも風味のしっかりした仔牛のフォンが見直されつつある。そのようなわけで、ソース・
1) ここではジュといわゆるフォンが同じ意味で使われている。
2) 日本の調理現場で「白いフォン」を意味する「フォン・ブラン」は主として鶏のフォンを指すことが多いが、本書で扱われて
いる白いフォンのうち標準的なものは仔牛肉、家禽類をベースとしており、鶏のフォンは別途説明されている。
3) 1767-184119 世紀の著名な美食家。著書に『食卓の古典』(1843) がある。料理名にキュシーの名を冠したものも多い。
4) 原文 chimiste。現代は分子ガストロノミーが盛んだが、料理を作る過程で起きる現象や結果を「化学」で説明しようとする試
みは少なくともカレームまで遡ることが出来る。茶色いフォンのレシピにおいて言及されるオスマゾームという想像上の物質
もその範疇に含まれるだろう。また、化学の前身たる「錬金術」的概念は中世以来いくつかの料理書において散見される。
5) 本書において「昔の料理」と表現される場合は概ね 1718 世紀末と考えていい。
6) 17 世紀に絶対王政を確立したルイ 14 世の母。
7) ルーがスペインからもたらされたというのは逸話、伝承の域を出ない。
4I.  ソース  Sauces
エスパニョルそれ自体の重要性はだんだん減っていくだろうと思われる。
ソース・エスパニョルが基本ソースとして扱われるべき理由は何か?  ソース・エスパニョルそ
れ自体に固有の色合いや風味というものはなく、これらはどんなフォンを用いて作るかで決まる。ま
さにこの点にソース・エスパニョルの長所が存するのだ。補助材料としてルーを加えるが、ルーには
とろみを付けるという意味しかなく、風味にはまったく寄与しない。そもそも、ソースを完璧に仕上
げるためには、とろみ以外のルーに含まれる成分はソースからほぼ完全に取り除いてしまっても差し
支えはない。不純物を丁寧に取り除いたソースにはルーに含まれていたでんぷん質だけが残ってい
るわけだ。だから、ソースの口あたりを滑らかなものにするために必要なのがでんぷん質だけなら
純粋なでんぷんだけを用いる方がずっと簡単で、作業時間も大幅に短縮されるし、その結果として
ソースを火にかけ過ぎてしまうようなミスも防げる。将来的には、小麦粉ではなく純粋なでんぷんで
ルーを作るようになるかも知れない。
料理界の現状を
かんが
鑑みるに、ソース・エスパニョルととろみを付けたジュをそれぞれ使い分けざるを
得ない。これにはさまざまな理由があるが、大きな仕立てのブレゼや、羊や仔羊以外を材料にしたラ
グーでは、肉汁が煮汁に染み出してきて美味しくなるわけだから、トマトを加えたソース・エスパ
ニョルを用いるのがいい。なお、ソース・エスパニョルをさらに丁寧に仕上げるとソース・ドゥミグ
ラスとなる。これはいろいろなソテーに不可欠なもので、今後も変わることはないだろう。
一方、牛や羊、家禽を使った繊細で軽い仕立ての料理にはとろみを付けたジュの方が好まれる。デ
グラセの際に少量だけ、料理の主素材と同じものからとったジュを用いる。
こんにちのフランス料理においては、肉とソースの調和がとれているべきという、まことに理に
適った厳守すべき決まりがある。
だから、ジビエ料理にはジビエのフォンを用いるか、とりたてて際立った個性を持たないフォンを
用いて作ったソースを添える。牛や羊のフォンは用いない。ジビエのフォンというのは、さほど濃厚
なものを作ることは出来ないが、素材の個性的な風味を表現するには最適だ。こういった事情は魚料
理にも当て
はま
嵌る。ソースそれ自体が際だった風味を持たないものの場合には必ず魚のフュメを加えて
やるのだ。このようにしてそれぞれの料理に個性的な風味を実現させることになる。
もちろん、ここまで述べた原則を実現しようにも、コストの問題がしばしば起こることは承知して
いる。けれども、熱意のある、他者の評価を意識している料理人なら問題点を熟考して、完璧とは言
わぬまでも満足のいく結果を得ることが出来るだろう。
ソースのベース作り 5
ソースのベース作り
         
茶色いフォン(エストゥファード)
Fonds brun ou Estouade
(仕上がり 10 L 分)
主素材……牛すね 6 kg仔牛のすね 6kg または
仔牛の端肉で脂身を含まないもの 6 kg骨付き
ハムのすねの部分 1(前もって下茹でしてお
くこと、塩漬けしていない豚皮を下茹でした
もの 650 g
香味素材……にんじん 650 g650 g
ブーケガルニ(パセリの枝 100 gタイム 10 g
ローリエ 5 g、にんにく 1片)
作業手順……肉を骨から外す。
骨は細かく砕き、オーブンに入れて軽く焼き色
を付ける。野菜は焼き色が付くまで炒める。こ
れらを鍋に入れて 14 L の水を注ぎ、ゆっくり
と、最12 時間煮込む。水位が下がらぬよう
に、適宜沸騰した湯を足すこと。
大きめのさいの目に切った牛すね肉を別鍋で焼
き色が付くまで炒める。先に煮込んでいたフォ
ンを少量加えて煮詰める。この作業を 23
行ない、フォンの残りを注ぐ。
鍋を沸騰させて、浮いてくる泡を取り除く。浮
き脂も丁寧に取り除く。蓋をして弱火で完全に
火が通るまで煮込んだら、布で漉してストック
しておく。
【原注】フォンの材料に牛の骨などが含まれて
いる場合には、事前にその骨だけで 1215
間かけてとろ火でフォンをとるといい。
フォンの材料を鍋に焦げ付くくらいまで強く
焼き色を付ける1)のはよろしくない。経験から
いって、丁度いい色合いのフォンに仕上げるに
は、肉に含まれているオスマゾーム2)の働きだ
けで充分だ。
白いフォン
Fonds blanc ordinaire
(仕上がり 10 L 分)
主素材……仔牛のすね、および端肉 10k g
の手羽やとさか足など、または鶏が4羽分、
香味素材……にんじん 800 g玉ねぎ 400 g
ワロー 300 gセロリ 100 gブーケガルニ(パ
100 g1、ローリエの葉 1
枚、クローブ 4本)
使用する液体と味付け……水 12 L、塩 60 g
作業手順……肉は骨を外し、紐で縛る。骨は細
かく砕く。鍋に肉と骨を入れ、水を注ぎ塩を加
える。火にかけ、浮いてくるアクを取り除き香
味素材を加える。
加熱時間……弱火で 3時間。
【原注】このフォンは火加減を抑えて、出来る
だけ澄んだ仕上がりにすること。アクや浮き脂
は丁寧に取り除くこと。
茶色いフォンの場合と同様に、始めに細かく砕
いた骨だけを煮てから指定量の水を注ぎ、弱火
5時間煮る方法もある。
この骨を煮た汁で肉を煮るわけだ。その作業内
容は上記茶色いフォンの場合と同様。この方法
は、骨からゼラチン質を完全に抽出出来るとい
う利点がある。当然のことだが、煮ている間に
蒸発して失なわれてしまった分は湯を足してや
り、全体量を 12 L にしてから肉を煮ること。
鶏のフォン(フォンドヴォライユ)
Fonds de volaille
白いフォンと同じ主素材、香味素材、水の量で、
さらに鶏のとさかや手羽、ガラを適宜増量し
廃鶏 3羽を加えて作る。
仔牛の茶色いフォン(仔牛の茶色いジュ)
Fonds, ou Jus de veau brun
(仕上がり 10 L 分)
主素材……骨を取り除いた仔牛のすね肉と肩肉
(紐で縛っておく)6kg細かく砕いた仔牛の骨
5 kg
香味素材……にんじん 600 g玉ねぎ 400 g
セリの枝 100 gローリエの2枚、タイ2枝。
使用する液体……白いフォンまたは水 12 L
を用いる場合は 1 L あたり 3 g の塩を加える。
作業手順……厚手の片手鍋または寸胴鍋の底に
輪切りにしたにんじんと玉ねぎを敷きつめる。
その他の香味素材と、あらかじめオーブンで焼
き色を付けておいた骨と肉を鍋に加える。
蓋を10 間、蓋火に
菜から水分が汗をかくように出るイメージで蒸
し焼き状態にし、素材の味を引き出す3)。フォ
ンまたは水少量を加え、煮詰める。この作業を
さら12回行なう。残りのフォンまたは水
を注ぎ、蓋をし、沸騰させる。アクを丁寧に取
る。微沸騰の状態で 6時間煮る。
1) パンセ pincer と呼ばれる手法。原義は「抓む材料が鍋底に張り付いて、トングなどでしっかり「抓ま」ないと取れないくら
い強く焼き付けることからそう呼ばれるようになった。古い料理書では推奨するものも多かった。
2) 19 世紀頃、赤身肉の美味しさの本質であると考えられていた想像上の物質。赤褐色をした窒素化合物の一種で水に溶ける性質
があるとされた。なお、当時のヨーロッパではグルタミン酸はもとよりイノシン酸が「うま味」の要素であるという概念すら
なく、「コクがある」corsé とか「肉汁たっぷり」onueux(オンクチュー)や succulent(スュキロン)などの表現で肉料理や
ソースの美味しさが表現された。
3) suer(スュエ)シュエ。
6I.  ソース  Sauces
布で漉し、ストックしておく。使用目的や必要
に応じて、さらに煮詰めてからストックしても
いい。
ジビエのフォン
Fonds de gibier
(仕上がり 5 L 分)
主素材……ノロ鹿の頸、胸肉および端肉 3 kg
老いたノロ鹿がいいが、新鮮なものを使うこ
と)野うさぎ1)の端肉 1 kg老うさぎ 2羽、
うずら 2羽、老きじ 1羽。
香味素材……にんじん 250 g250 g
セージ 1枝、ジュニパーベリー 2)15 粒、標準的
なブーケガルニ。
使用する液体……水 6 L および白ワイン 1瓶。
加熱時間……3時間。
……
色を付けておき、野菜と香草を敷き詰めた鍋に
入れる。野菜類も事前に焼き色を付けておくこ
と。ジビエを焼くのに用いた天板を白ワインで
デグラセし、これを鍋に注ぐ。同量の水も加え、
ほぼ水分がなくなるまで煮詰める。
この作業の後で、残りの水全量を注ぎ、沸騰
る。
煮る3)
魚のフュメ(フュメドポワソン)
4)
Fonds, ou Fumet de poisson
(仕上がり 10L 分)
主素材……舌びらめ、メルラン5)やバルビュ6)
のあら 10 kg
香味素材……薄切りにした玉ねぎ 500 g、パ
リの根7)100 g
8)250 g、レモンの搾り汁 1個分、粒こしょう
15 g(これはフュメを漉10 分前に投入する
使用する液体と調味料……水 10 L、白ワイン 1
瓶。液体 1 L あたり 34 g の塩。
加熱時間……30 分。
作業手順……鍋底に香味野菜を敷き詰め、魚の
あらを入れる。水と白ワインを注ぎ、強火にか
ける。丁寧にアクを引き、微沸騰の状態を保つ
ようにする。30 分煮たら目の細かい網で漉す。
【原注】質の悪い白ワインを使うと灰色がかっ
たフュメになってしまう。品質の疑わしいワイ
ンは使わないほうがいい。
このフュメはソースを作る際に加える液体とし
て用いる。魚料理用ソース・エスパニョルを作
ることを想定する場合には、魚のあらをバター
でエチュベしてから水と白ワインを注いで煮る
といい。
赤ワインを用いた魚のフォン
Fonds de poisson au vin rouge
このフォンそれ自体を用意することは滅多にな
い。というのも、例えばマトロットのような料
理の魚の煮汁そのものだからだ。
とはいえ、こんにちでは魚のアラをすっかり取
り除いた状態で料理を提供する必要がますます
高まってきているので、ここでそのレシピを記
しておくべきだろう。このフォンの必要性と有
用さはどんどん高まっていくと思われる。
原則として、このフォンの仕込みには、料理
として提供するのと同じ種類の魚のアラを用
いて、その香りの特徴を生かす必要がある。だ
が、どんな種類の魚を使う場合でも作り方は同
じだ。
(仕上がり 5 L 分)
……
アラ 2.5 kg
……
300 gパセリの枝 100 gタイムの小枝 1本、
さめのローリエの葉 2枚、にんにく 5片、マッ
シュルームの切りくず 100 g
使用する液体と調味料……水 3.5 L、良質の赤
ワイン 2 L、塩 15 g
加熱時間……30 分。
作業手順……「魚の白いフォン9)」と同様に
する。
【原注】このフォンは魚の白いフォンよりも濃
く煮詰めることが可能。とはいえ、保存のため
に煮詰めないでいいように、その都度、必要な
1) lièvre(リエーヴル)
2) セイヨウネズの樹の実。
3) 最後に布で漉す必要があるが、当然のこととして明記されていないので注意。
4) 本質的には前出の「フォン」と同様のものだが、魚(およびジビエ)を素材としたフォンは香りがポイントとなるため、フュ
fumet (香気、良い香りの意)の名称のほうが一般的に使われている。
5) タラの近縁種。
6) ヒラメの近縁種。
7) パセリには根がにんじん形に肥大する品種もある(persil tubéreux 根パセリ。葉は平らでイタリアンパセリのように使う)
8) champignons de Paris(シャンピニョンドパリ)いわゆるマッシュルームは、ガルニチュールなど料理の一部として提供する際
に、トゥルネ tourner といって螺旋(らせん)状の切れ込みを入れて装飾したものを使う。その際に少なくない量、具体的に
はマッシュルームの重量で 1520 %程度が「切りくず」として発生するのでこれを利用する。この場合だと、少なくとも 650
750 g 程度のマッシュルームの下処理(トゥルネ)をする必要があるが、大きな調理現場以外で毎日それほどのマッシュルー
ムを消費するケースは少ないと思われるので、このレシピのとおりに作るには、切りくずを数日かけて冷蔵庫などで貯めてお
くなどの工夫が必要だろう。本書のレシピ、とりわけフォンやフュメ、ソースにおいてマッシュルームの切りくずを用いる指
示が少なくないので留意されたい。なお、tourner(トゥルネ)の原義は「回す」であり、包丁を持った側の手は動かさずに、
材料のほうを回すようにして切れ目を入れたり、アーティチョークや果物などの皮を剥くことを意味する。
9) 前項のフュメドポワソンのこと。
ソースのベース作り 7
量だけ仕込むことを勧める。
魚のエッセンス
Essence de poisson
…… 1) 頭、
アラ 2 kg
香味素材……薄切りにした玉ねぎ 125 g、マ
シュルームの切りくず 300 gパセリの枝 50 g
レモンの搾り汁 1個分。
使用する液体……煮詰めていないフュメドポワ
ソン 11/2L、良質の白ワイン 3 dL
所要時間……45 分。
作業手順……鍋にバター 100 g と玉ねぎ、パセ
リの枝、マッシュルームの切りくずを入れ、強
る。
肉をる。蓋を15 火で
2)。その間、小まめに混ぜてやること。白ワ
インを注ぎ、半量になるまで煮詰める。最後に
フュメドポワソンを注ぎ、レモン汁と塩 2 g
加える。
再び火にかけて、とろ火で 15 分程煮込んだら、
布で漉す。
【原注】魚のエッセンスは、舌びらめやチュル
ボ、チュルボタン、バルビュ3)などのフィレ4)
ポシェする際に用いる。
さらに、このエッセンスを煮詰めて、上記でポ
シェした魚のソースに加えて風味を強くするの
に使う。
エッセンスについて
Essences diverses
その名のとおり、エッセンスとはごく少量にな
るまで煮詰めて非常に強い風味を持たせたフォ
ンのこと。
エッセンスは普通のフォンと本質的には同じも
のだが、素材の風味をしっかり出すために、使
用する液体の量はずっと少ない。したがって
仕上げにエッセンスを加える指示がある料理の
場合でも、そもそも充分に風味ゆたかなフォン
を用いていれば、エッセンスは必要ないことが
分かるだろう。
に、
用いるほうが、あまり出来のよくないフォンで
調理し、後からエッセンスで欠点を補うよりも
ずっと簡単なのだ。その方がいい結果が得られ
るし、時間と材料の節約にもなる。
セロリ、マッシュルーム、モリーユ5)トリュフ
など、とりわけ明確な風味の素材のエッセンス
を、必要に応じて用いるにとどめるのがいい。
また、十中八九、フォンを仕込む際に素材その
が、
もいい結果が得られることは頭に入れておく
こと。
そのようなわけで、エッセンスについてこれ以
上長々と述べる必要もないと思われる。ベース
となるフォンがコクと風味がゆたかなものなら
であるなら、エッセンスはまったく無用の長物
と言える。
グラスについて
Glaces diverses
グラスドヴィアンド、鶏のグラス(グラスド
ヴォライユ、ジビエのグラス、魚のグラスの
用途は多岐にわたる。これらは、上記いずれか
の素材でとったフォンをシロップ状になるまで
煮詰めたもののことだ。
これらの使い途は、料理の仕上げに表面に塗っ
てしっとりとした艶を出させるのに用いる場合
もあれば、ソースの味や色合いを濃くするため
に用いたり、あるいは、あまりに出来のよくな
いフォンで作った料理の場合にはコクを与える
ために使うこともある。また、料理によっては
適量のバターやクリームを加えてグラスそのも
のをソースとして用いることもある。
グラスとエッセンスの違いだが、エッセンスが
料理の風味そのものを強くすることだけが目的
であるのに対して、グラスは素材の持つコクと
風味をごく少量にまで濃縮したものだ。
だからほとんどの場合、エッセンスよりもグラ
スを使うほうがいい。
とはいえ昔の料理長たちの中には、グラスの使
用を絶対に認めない者もいた。その理由は、料
理を作る度に毎回その料理のためのフォンをと
るべきであり、それだけで料理として充分なも
のにすべき、ということだった。
確かに時間と費用の点で制限がなければその理
屈は正しい。だが、こんにちでは、そのような
ことの出来る調理現場はほとんどない。そもそ
もグラスは、正しく適量を用いるのであれば
そのグラスが丁寧に作られたものであるなら
な、素晴しい結果が得られる。だから多くの場
合、グラスはまことに有用なものと言える。
グラスドヴィアンド
Glace de viande
茶色いフォン(エストゥファード)を煮詰めて
作る。
煮詰めて濃くなっていく途中、何度か布で漉し
て、より小さな鍋に移しかえていく。煮詰めて
いる際に、丁寧にアクを引くことが、澄んだグ
1) タラの近縁種。
2) 素材を入れた鍋に蓋をして弱火にかけ、少量の水分で蒸し煮状態にすることを étuver エチュベという。このフランス語をその
まま用いている調理現場も少なくない。
3) いずれも鰈、ひらめの近縁種。チュルボタンはチュルボの小さいものを言う。
4) 3 枚おろし、または 5枚おろしにして、頭とアラを取り除いた状態。
5) morille キノコの一種。和名アミガサタケ。
8I.  ソース  Sauces
ラスを作るポイント。
煮詰めている際には、フォンの濃縮具合に応じ
て、火加減を弱めていくこと。最初は強火でい
いが、作業の最後の方は弱火にしてゆっくり煮
詰めてやること。
スプーンを入れてみて、引き上げた際に、艶の
あるグラスの層でスプーンが覆われ、しっかり
張り付いているくらいが丁度いい。要するに
スプーンがグラスでコーティングされた状態に
なればいいということだ。
【原注】色が薄くて軽い仕上がりのグラスが必
要な場合には、茶色いフォンではなく、標準的
な仔牛のフォンを用いる。
鶏のグラス(グラスドヴォライユ)
Glace de volaille
(フユ)て、
グラスドヴィアンドと同様にして作る。
ジビエのグラス
Glace de gibier
ジビエのフォンを煮詰めて作る。ある特定のジ
ビエの風味を生かしたグラスを作るには、その
ジビエだけでとったフォンを用いること。
魚のグラス
Glace de poisson
このグラスを用いることはあまり多くない。日
常的な業務においては「魚のエッセンス」を用
いることが好まれる。そのほうが魚の風味も繊
細になる。魚のエッセンスで魚をポシェした後
に煮詰めてソースに加える。
ルー

ルーはいろいろな派生ソースのベースとなる基本ソースにとろみを付ける役目を持つ。ルーの仕込
みは、一見したところさほど重要に思われぬだろうが、実際には正反対だ。丁寧に注意深く作業する
こと。
茶色いルーは加熱に時間がかかるので、大規模な調理現場では前もって仕込んでおく。ブロンドの
ルーと白いルーはその都度用意すればいい。
茶色いルー
Roux brun
(仕上がり 1 kg 分)
1. 澄ましバター……500 g
2. ふるった小麦粉……600 g
ルーの火入れについて
加熱時間は使用する熱源の強さで変わってく
る。い。し、
火力が強過ぎるよりは弱いくらいの方がいい。
というのも、温度が高すぎると小麦粉の細胞が
硬化して中身を閉じ込めてしまい、そうなると
後でフォンなどの液体を加えた際に上手く混ざ
らず、滑らかなとろみの付いたソースにならな
い。乾燥豆をいきなり熱湯で茹でるのと同じよ
うなことが起きるわけだ。低い温度から始めて
だんだんと熱くしていけば、小麦粉の細胞壁が
ゆるんで細胞中のでんぷんが膨張し、熱によっ
て発酵状態の初期のようになる。このようにし
、でんぷんをデキストリンに変化させる1)
デキストリンは水溶性の物質で、これが「とろ
み」の主な要素なのだ。茶色いルーは淡褐色の
美しい色合いで滑らかな仕上がりにする。だま
があってはいけない。
ルーを作る際には必ず、澄ましバターを使うこ
2)。生のバターには相当量のカゼインが含ま
れている。カゼインがあると火を均質に通すこ
とが出来なくなってしまう。とはいえ、以下を
覚えておくといい。ソースとして仕上げた段階
で、ルーで使ったバターは風味という点ではほ
とんど意味が失なわれている。そもそもソース
1) 現代の科学的見地からすると必ずしも正確な記述ではないので注意。
2) 初版〜第三版では「澄ましバターまたは充分に澄ましたグレスドマルミット」となっている。グレスドマルミットとは、コン
ソメなどを作る際に、浮いてくる油脂を取り除く必要があるが、それを捨てずにまとめてから漉して澄ませたもののこと。基
本的に獣脂と考えていい。なお、同時代の料理書例えばペラプラ『近代料理技術』1935 年)には、ルーを作るのにバター
を使う必要はなく、グレスドマルミットで充分、としているものもある。
1) dépouiller デプイエ。ソースや煮込み料理を仕上げる際に、浮き上がってくる不純物を徹底的に取り除き、目の細かい布など
で漉すこと。原義は動物などの皮を剥ぐ、剥くことの意で、野うさぎの皮を剥ぐ、うなぎの皮を剥く、という意味で現代の厨
房でも用いられているる。ソースの場合は表面に凝固した蛋白質や油脂の膜が出来、それを「剥ぐように」取り除くことから、
あるいは表面に浮いてくる不純物を徹底的に取り除いてきれいなソースに仕上げることを、動物の皮を剥いてきれいな身だけ
にすることになぞらえて、この用語が用いられるようになったようだ。なお、本書において écumer(エキュメ)が単に浮いて
くる泡やアクを取る、という作業であるのに対してdépouiller(デプイエ)は「徹底的に不純物を取り除いて美しく仕上げ
る」という意味合いが込められている。現代では品種改良や農法の変化によって野菜のアクも少なくなり、小麦粉も精製度の
高いものを利用出来るなど、食材および調味料の多くで純度の高いものを使用する場合がほとんどであり、このデプイエとい
う作業は 20 世紀後半にはほとんど行なわれなくなり、écumer(エキュメ)という用語だけで済ませることがほとんど(cf.
ルー 9
の仕上げに不純物を取り除く1)段階でバターも
完全に取り除かれてしまうわけだ。だからルー
に用いるバターは小麦粉に熱を通すためだけの
ものと考えていい。
ルーはソース作りの出発点だ。だから次の点も
記憶に
とど
留めること。小麦粉にでんぷんが含まれ
ているからこそソース「とろみ」が付く。だか
ら純粋なでんぷん(特性が小麦のでんぷんと同
じでも異なったものでも)でルーを作っても
小麦粉の場合と同様の結果が得られるだろう。
ただしその場合は小麦粉でルーを作る場合より
注意して作業する必要がある。また、小麦粉と
違って余計な物質が含まれていないために、全
体の分量比率を考え直すことになる。
【原注】本文で述べたように、茶色いルーを作る
際には澄ましバターを用いる。他の動物性油脂
はよほど経済的事情が逼迫していない限り使わ
ないこと。材料コストが問題になる場合でも
ソースの仕上げに不純物を取り除く際に多少の
注意を払えば、ルーに用いたバターを回収する
のはさして難しいことではない2)。それを後で
他の用途で使えばいいだろう。
ブロンドのルー
Roux blond
(仕上がり 1 kg 分)
じ。
ター 500 g と、ふるった小麦粉 600 g
火入れは、ルーがほんのりブロンド色になるま
で、ごく弱火で行なう。
白いルー
Roux blanc
500 g のバターと、ふるった小麦粉 600 g
このルーの火入れは数分、つまり粉っぽさがな
くなるまでの時間でいい。
静雄監訳『オリヴェソースの本』柴田書店、1970 年、2728 頁)
2) 既に述べたように初版〜第三版まではバターまたはグレスドマルミットという指示であったことに留意する必要はあるだろ
う。実際のところ、良質のバターを用いてルーを作ったほうが、軽やかな仕上りのソースになる傾向があることは言うまでも
ない。
10 I.  ソース  Sauces
基本ソース
   
ソース・エスパニョル1)
Sauce espagnole
(仕上がり 5 L 分)
とろみ付けのためのルー……625 g
(ソ
全量)……12 L
ミル2)(香素材)……小ささい目に
切った塩漬け豚ばら肉 150 g2 mm 程度のさい
の目3)に切ったにんじん 250 g 玉ね150 g
タイム 2枝、ローリエの葉 2枚。
作業手順
1. フォン 8 L を鍋で沸かす。あらかじめ柔らかく
しておいたルーを加え、木杓子か泡立て器で混
ぜながら沸騰させる。
弱火にして4)微沸騰の状態を保つ。
2. 以下のようにしてあらかじめ用意しておいたミ
ルポワを投入する。ソテー鍋に塩漬け豚ばら肉
を入れて火にかけて脂を溶かす。そこに、細か
く刻んだにんじんと玉ねぎ、タイム、ローリエ
の葉を加える。野菜が軽く色づくまで強火で炒
める。丁寧に、余分な脂を捨てる。これをソー
スに加える。野菜を炒めたソテー鍋に白ワイン
100 mL5)を加えてデグラセ6)し、それを半量
まで煮詰める。これも同様にソースの鍋に加え
る。こまめに浮いてくる夾雑物を徹底的に取り
除き7)ながら弱火で約 1時間煮込む。
3. ソースをシノワ8)で、ミルポワ野菜を軽く押し
ながら漉し、別の片手鍋に移す。フォン 2 L
注ぎ足す。さらに 2時間、微沸騰の状態を保ち
ながら煮込む。その後、陶製の鍋に移し、ゆっ
くり混ぜながら冷ます。
4. 翌日、再び厚手の片手鍋に移してから、フォン
2 L とトマトピュレ 1 L または同等の生のトマ
トつまり 2 kg を加える。
トマトピュレを用いる場合は、あらかじめオー
ブンでほとんど茶色になるまで焼いておくとい
い。そうするとトマトピュレの酸味を抜くこと
が出来る。
そうすればソースを澄ませる作業が楽になる
し、ソースの色合いも温かそうで美しいものに
なる。
ソースをヘラか泡立て器で混ぜながら強火で沸
る。1時間微沸騰の状態を
保つ。最後に、表面に浮いている不純物を、細
心の注意を払いながら徹底的に取り除く。布で
漉し、完全に冷めるまで、ゆっくり混ぜ続ける
1) 本節冒頭では、ルーがスペインの料理人によってもたらされ、その結果としてソース・エスパニョルが作られるようになった
と読める記述があるが、これはむしろ誤りと考えるべき。エスパニョル espagnol(e) は「スペイン(風)の」意だが、スペイン
料理起源というわけでもない。スペインを想起させるトマトを使うから、あるいは、ソースが茶褐色なのがムーア系スペイン
人を想起させるから、など定説はない。カレーム19 世紀フランス料理』第 3巻に収められたソース・エスパニョルの作り方
は、フォンをとるところから始まり 4ページにわたって詳細なものとなっている(pp.8-11。その中で、肉を入れた鍋に少量
のブイヨンを注いで煮詰めることを繰り返す。ここまでは 18 世紀の料理書で一般的な手法であるが、その後に大量のブイヨ
ンを注いだ後、いきなり強火にかけるのではなく、弱火で加熱していくやり方を「スペイン式の方法」と述べている。カレー
ムにおいては、これがソースの名称の根拠のひとつになっていると考えていいだろう。もちろん、ソース・エスパニョルとい
う名称のソースはカレーム以前からあり、1806 年刊のヴィアール『帝国料理の本』にもカレームのレシピより簡単だが、ほぼ
同様のものが基本ソースとして収録されている。また、それ以前にもソースエスパニョルに類する名称のソースはあったが、
たとえば 1739 年刊ムノン『新料理研究』2巻にある「スペイン風ソース」はかなり趣きが異なる(コリアンダーひと把みを
加えるのが特徴的)同じ料理名でも時代や料理書の著者によってまったく違う料理になっていることは、食文化史において珍
しいことではない。また、とりわけ料理名に地名、国名が冠されているものの中には根拠や由来のはっきりしないものも多い。
いずれにしても、本書のソース・エスパニョルの源流は 19 世紀初頭のヴィアールあたりからと考えられる。ソース・エスパ
ニョルは 19 世紀を通して普及し、茶色いソースの代表的な存在となった。こんにちでもフォンドヴォーをベースとしたソー
スは、ルーでとろみ付けこそしないが、仔牛の骨などから出るコラーゲンによるとろみを利用したもので、仕上がりの色合い
や、ごく標準的ともいえる風味付けの方法などが引継がれ続けている調理現場も少なくない。もっとも、上述のように本書で
は「茶色いルー」を使うところに「エスパニョル」であることの理由を見い出そうとしていると解釈される。
2) mirepoix(ミルポワ)。ソースやフォンにコクを与える目的で、細かいさいの目に切った香味野菜や塩漬け豚ばら肉を合わせた
もの。18 世紀にミルポワ公爵の料理人が考案したといわれているが真偽は不明。同様のものに matignon(マティニョン)が
ある。ミルポワより大きめのさいの目に切るのが一般的とされるが、調理現場によってはあまり区別せずミルポワとのみ呼称
するケースも多い。第 2章ガルニチュール、ミルポワ訳注参照。
3) brunoise(ブリュノワーズ)12 mm さいの目に切ること。couper en mirepoix(クゥペオンミルポワ)ミルポワに切ると
も言う。
4) 原文から直訳すると「鍋を火の脇に置く」だが、現代の調理環境では単純に「弱火にする」と解釈していい。
5) 原文 un verre de vin blanc(アンヴェールドヴァンブロン)直訳すると「グラス 1の白ワイン」だが、本書において un verre
de 〜は「約 1 dL=100 mL」と覚えておくといいだろう。
6) dégrasser 鍋に粘液状になって付着している肉汁を酒類あるいは水で溶かし出してソースなどに利用すること。
7) dépouiller デプイエ。前節「ルーの火入れについて」訳注参照。
8) 小さな穴が多く空けられた円錐形で、取っ手の付いた漉し器の一種。金属製のものが主流。
基本ソース 11
こと。
【原注】ソースエスパニョルで仕上げに不純
物を取り除くのにかかる時間はいちがいには言
えない。これは、ソースに用いるフォンの質次
第で変わるからだ。
ソースにするフォンが上質なものであればあ
る程、仕上げに不純物を取り除く作業は早く済
む。そういう場合には、ソース・エスパニョル
5時間で作ることも無理ではない。
魚料理用ソース・エスパニョル1)
Sauce espagnole maigre
(仕上がり 5 L 分)
バターを用いて2)作ったルー……500 g
(フン)(ソ
上げるために必要な全量)……10 L
ミルポワ……標準的なソース・エスパニョルと
同じミルポワ野菜を同量と、塩漬け豚ばら肉の
代わりにバターを用い、マッシュルームまたは
マッシュルームの切りくず3)250 g を加える。
作業手順……標準的なソース・エスパニョルと
まったく同様に作る。
加熱時間と不純物を取り除くのに必要な時
間……5時間。
仕上げに漉してから、標準的なソース・エスパ
に、
ゆっくり混ぜ続けること。
魚料理用ソース・エスパニョル補足 このソース
を日常的な料理のベースとなる仕込みに含める
かどうかについては意見が分れるところだ。
普通のソース・エスパニョルは、つまるところ
風味の点ではほとんどニュートラルなものだ
から、それに魚のフュメを加えれば、魚料理用
ソース・エスパニョルとして充分に通用するだ
ろう。どうしても上で挙げた魚料理用ソース
エスパニョルが必要になるのは、宗教的に厳格
に小斉の決まりを守って料理を作る場合のみ
で、さすがにその場合は代用品などない。
ソース・ドゥミグラス4)
Sauce demi-glace
一般に「ドゥミグラス」と呼ばれているものは、
いったん仕上がったソース・エスパニョルをさ
らに、もうこれ以上は無理という位に徹底的に
不純物を取り除いたもののことだ。
最後の仕上げにグラスドヴィアンドなどを加え
る。風味付けに何らかの酒類5)を加えれば、当
然ながらソースの性格も変わるので、最終的な
使い途に応じて決めること。
【原注】ソースの色合いを決めるワインを仕上
は、「火て」
と。沸騰しているとワインの香りがとんでしま
うからだ。
とろみを付けた仔牛のジュ
Jus de veau lié
(仕上がり 1 L 分)
仔牛のフォン……仔牛の茶色いフォン 4 L
とろみ付け材料……アロールート6)30 g
作業手順……よく澄んだ仔牛のフォン 4 L
け、1/41 L になるまで煮詰
める。
大さじ数杯分の冷たいフォンでアロールートを
1) フランス語のソース名にある maigre(メーグル)はこの場合、一般的に「魚用、魚料理用」と訳すが、厳密には「小斉の際の
料理用」となろう。小斉とは、カトリックで古くから特定の期間、曜日に肉類を断つ食事をする宗教的食習慣。日本の「お精
進」とニュアンスは近いが、小斉においては忌避されるのは鳥獣肉のみであり、魚介や乳製品はいいとされた。こじつけのよ
うに、水鳥は水のものだから魚介扱いであり、またイルカも魚類として扱われていた。小斉が行なわれるのは復活祭の前 46
(四旬節、逆に言えばカーニバルの最終日マルディグラの翌日から 46 日)と、週に一度(多くの場合は金曜)であった。
計すると小斉が行なわれるのは年間 100 日近くもあり、中世から 18 世紀の料理人たちは小斉の宴席に供する料理に工夫を凝
らしていた。この習慣は 19 世紀になるとだんだん廃れていき、エスコフィエの時代には、料理人に対して小斉のための料理を
要求することは少なくなっていった。
2) 初版〜第三版にかけては、茶色いルーを作るのに「バターまたは、きれいなグレスドマルミット(コンソメなどを作る際に表
面に浮いてくる脂をすくい取って、不純物を漉し取ったものであり、基本的に獣脂)を用いる、とある。上述のように、カト
リックにおける「小斉」の場合、獣脂は忌避されたがバターなどの乳製品は許容された。そのため特に「バターを用いて作っ
たルー」という指定がなされ、第四版では茶色いルーに澄ましバターのみを使う旨が強調されたが、ここでは初版以来の記述
がそのまま残っているために、やや冗長に思われる表現となっている。
3) champignons de Paris(シャンピニョンドパリ)いわゆるマッシュルームは、ガルニチュールなど料理の一部として提供する際
に、トゥルネ tourner といって螺旋(らせん)状の切れ込みを入れて装飾したものを使う。その際に少なくない量、具体的に
は重量で 1520 %程度が「切りくず」として発生するのでこれを利用する。なお、tourner(トゥルネ)の原義は「回す」であ
り、包丁を持った側の手は動かさずに、材料のほうを回すようにして切れ目を入れたり、アーティチョークや果物などの皮を
剥くことを意味する。
4) 日本洋食で一的な「デミグス」あるは「ドラス」」とはかり異た仕りのースるこに注意。
ソースエスパニョルの仕上げにあたって、徹底的に不純物を取り除くことを何度も強調しているのは、透き通った茶色がかっ
た色合いの、なめらかなソースを目指すからであり、それをさらに徹底させるということは、透明度、なめらかさの面でさら
に上を目指すということを意味するからだ。ちなみに、アメリカに本社のあるメーカーの「デミグラスソース」の缶詰はもっ
ぱら日本で販売されている製品であり、ヨーロッパおよびアメリカでは同一ブランドに該当する商品は存在しないようだ。
5) 本書ではマデイラ酒(マデイラワイン、ポルトガルの酒精強化ワイン、すなわちブドウ果汁が酵母により醗酵している途中で
蒸留酒を加えて醗酵を止める製法のもので、甘口のものが多い)が用いられることが多い。
6) allow-root 南米産のクズウコンを原料とした良質のでんぷん。日本では入手が難しいこともあり、コーンスターチが用いられ
ることがほとんど。
12 I.  ソース  Sauces
溶く。これを沸騰している鍋に加える1分程
度だけ火にかけ続けたら、布で漉す。
【原注】この、とろみを付けた仔牛のジュは
本書では頻繁に使う指示をしているが、必ず
しっかりした味で透き通った、きれいな薄茶色
に仕上げること。
ヴルテ1)(標準的な白いソース)
Velouté, ou sauce blanche graisse
(仕上がり 5 L 分)
とろみ付けの材料……バターを用いて作った2)
ブロンドのルー 625 g
よく澄んだ仔牛の白いフォン……5 L
作業手順……ルーをフォンに溶かし込む。フォ
ンは冷たくても熱くてもいいが、フォンが熱い
場合にはソースが充分なめらかになるよう注意
して溶かすこと。混ぜながら沸騰させる。微沸
騰の状態を保ちながら、浮いてくる不純物を完
全に取り除いていく3)。この作業はとりわけ細
心の注意を払って行なうこと。
加熱時間と不純物を取り除く作業に必要な時
間……1時間半。
その後、ヴルテを布で漉す4)。陶製の鍋に移し
てゆっくり混ぜながら完全に冷ます。
鶏のヴルテ
Velouté de volaille
このヴルテの作り方だが、上述の標準的なヴル
テと、材料比率と作業はまったく同じ。使用す
る液体として鶏の白いフォン(フォンドヴォラ
イユ)を使う。
魚料理用ヴルテ
Velouté de poisson
ルーと液体の分量は標準的なヴルテとまったく
同じだが、仔牛のフォンではなく魚のフュメを
用いて作る。
ただし、魚を素材として用いるストックはどれ
もそうだが、手早く作業すること。不純物を取
り除20 分程めると。
後、布で漉し、陶製の鍋に移してゆっくり混ぜ
ながら完全に冷ます。
ソース・アルマンド(パリ風ソース5)
Sauce parisienne (ex-Allemande)
(仕上がり 1 L 分)
標準的なヴルテに卵黄でとろみを付けたソー
ス。
標準的なヴルテ……1 L
追加素材……卵黄 5個、白いフォン(冷たいも
の)1/2L、粗く砕いたこしょう 1み、
すりおろしたナツメグ少々、マッシュルームの
煮汁 2 dL、レモン汁少々。
……
ムの茹で汁と白いフォン、卵黄、粗く砕いたこ
しょう、ナツメグ、レモン汁を入れる。泡立て
器でよく混ぜ、そこにヴルテを加える。火にか
けて沸騰させ、強火で$23量になるまでヘラで
混ぜながら煮詰める。
ヘラの表面がソースでコーティングされる状態
になるまで煮詰めたら、布で漉す。
膜が張らないよう、表面にバターのかけらをい
くつか載せてやり、湯煎にかけておく。
仕上げ……提供直前に、バター 100 g を加えて
仕上げる。
【原注】ソースアルマンド(ドイツ風)とも呼
ばれるが、本書では「パリ風」の名称を採用し
た。そもそも「アルマンド」というの名称に正
当性がないからだ。習慣としてそう呼ばれてき
ただけであって、明らかに理屈に合わない名称
6)1883 年に雑誌「料理技術」に某タヴェル
ネ氏が寄せた記事には、当時ある優秀な料理人
がアルマンドなどという理屈に合わない名称を
使うのはやめたという話が出ている。
こんにち既に「パリ風ソース」の名称を採用し
ている料理長もいる。そう呼んだほうが好まし
いわけだが、残念なことにまだ一般的にはなっ
ていない7)
ソース・シュプレーム8)
Sauce supême
1) velouté(ヴルテ)原義は「ビロードのように柔らかな、なめらかな」日本ではベシャメルソースと混同されやすいが、内容が
まったく異なるソースなので注意。
2) 魚料理用ソース・エスパニョル、訳注参照。
3) dépouiller(デプイエ)ソース・エスパニョル、訳注参照。
4) ある程度濃度のある液体やピュレを布で漉す場合、昔は「二人がかりで行なう必要があり、それぞれが巻いた布の端を左手に
持ち、右手に持った木杓子を使って圧し搾る」『ラルース・ガストロノミーク』初版、1938 年)という方法が一般的だった。
5) 原書では「パリ風ソース(元ソース・アルマンド)」となっているが、後述のように、こんにちでもソース・アルマンドの名称
のほうが一般的であるため、ここでは Sauce Parisienne の「訳語」としてソース・アルマンドをあてることとした。
6) エスコフィエは普仏戦争に従軍した経歴があり、ドイツ嫌いとして知られていた。
7) エスコフィエの願いもむなしく、現代においてもソース・アルマンドの名称で定着している。この「全注解」においても以後
は「ソース・アルマンド」と訳しているので注意されたい。なお、「ドイツ風」というソース名の由来について、ソースの淡い
黄色がドイツ人に多い金髪を想起させるからだとカレームは述べている。
8) suprême 原義は「至高の」だが、料理においてはしばしば鶏や鴨の胸肉、白身魚のフィレなどを意味する。また、このソース
のように、とくに意味もなくこの名を料理につけられているケースも多い。
1) フランスの生クリームのうち、料理でよく使われるのは、日本の生クリームにやや近い「クレーム・フレッシュ・パストゥリ
ゼ」低温殺菌した生クリームで乳脂肪分 3038 %)のか、「クレム・フレュ・エペス」(低温殺乳酸
せたもので日本で一般的な生クリームより濃度がある)「クレーム・ドゥーブル」(殺菌後に乳酸醗酵させたもので乳脂肪分
40 %程度でかなり濃度がある)などがある。
基本ソース 13
鶏のヴルテに生クリーム1)を加えてなめらかに
仕上げ2)たもの。ソースシュプレームは、正し
く作った場合「白さの
きわ
際だったとても繊細な
仕上がりのものでなくてはいけない。
(仕上がり 1 L 分)
鶏のヴルテ……1 L
追加素材……鶏の白いフォ1 Lマッシュルー
ムの茹で汁 1dL、良質な生クリーム 21/2dL
作業手順……鍋に鶏のフォンとマッシュルーム
の茹で汁、鶏のヴルテを入れて強火にかけ、ヘ
ラで混ぜながら、生クリームを少しずつ加え
煮詰めていく。このヴルテと生クリームを煮詰
めたものの分量は、上で示した仕上がり 1L
ソースシュプレームを作るには、
1/3量まで煮
詰まっていなくてはならない。
布で漉し、上げに 1 dL の生クリームとバター
80 g を加えてゆっくり混ぜながら冷ますと、
度最初のヴルテと同量になる。
ベシャメルソース3)
Sauce Béchamel
(仕上がり 5 L 分)
白いルー……650 g
使用する液体……沸かした牛乳 5 L
追加素材……白身で脂肪のない仔牛肉 300 g
さいの目に切りみじん切りにした玉ねぎ(小)
2個分とタイム 1枝、粗く砕いたこしょう 1
まみ、25 g とバターを鍋に入れて蓋をし
付かないように弱火で蒸し煮したもの。
作業手順……沸かした牛乳でルーを溶く。混ぜ
ながら沸騰させる。ここに、先に蒸し煮してお
いた野菜と調味料、仔牛肉を加える。弱火で 1
時間煮込む。布で漉し4)、表面にバターのかけ
らをいくつか載せて膜が張らないようにする。
肉類を絶対に使わない5)で調理する必要がある
場合は、仔牛肉を省き、香味野菜などは上記の
とおりに作ること。
このソースは次のようなやり方をすると手早く
作ることも出来る。沸かした牛乳に塩、薄切り
ぎ、ム、う、
ナツメグを加える。蓋をして弱火で 10 分煮る。
これを漉してルーを入れた鍋の中に入れ、強火
にかけて沸騰させる。その後 1520 分だけ煮
込めばいい。
トマトソース
Sauce tomate
(仕上がり 5 L 分)
主素材……トマトピュレ 4 Lまたは生のトマ
6 kg
ミルポワ……さいの目に切って下茹でしておい
た塩漬け豚ばら肉 140 g 12 mm 角のさいの
目に刻んだにんじん 200 g と玉ねぎ 150 gロー
リエの葉 1枚、タイム 1枝、バター 100 g
追加素材……小麦粉 150 g白いフォン 2 L
んにく 2片。
調……20 g30 g、こしょう 1
まみ。
作業手順……厚手の片手鍋で、塩漬け豚ばら肉
を軽く色付くまで炒める。ミルポワの野菜を加
え、野菜も色よく炒める。小麦粉を振りかける。
ブロンド色になるまで炒めてから、トマトピュ
レまたは潰した生トマトと白いフォン、砕いた
にんにく、塩、砂糖、こしょうを加える。
火にかけて混ぜながら沸騰させる。鍋に蓋をし
て弱火のオーブンに入れ 1時間半〜2間加熱
する。
目の細かい漉し器または布で漉す。再度、火に
かけて数分間沸騰させる。保存用の器に移し
ソースが空気に触れて表面に膜が張らないよ
う、バターのかけらを載せてやる。
【原注】トマトピュレを使い、小麦粉は使わず、
その他は上記のとおりに作ってもいい。漉し器
か布で漉してから、充分な濃度になるまでしっ
かり煮詰めてやること。
2) monter モンテ。原義は「上げる、ホイップする」だが、ソースの仕上げの際などに、バターや生クリームを加えて、なめらか
に仕上げることも「モンテ」の語を使用する場合が多い。
3) 17 世紀にルイ 14 世のメートルドテルを務めたこともあるルイ・ベシャメイユ Louis Béchameil16301703の名が冠されて
いるこのソースは、彼自身の創案あるいは彼に仕えていた料理人によるものという説もあったが真偽は疑わしい。17 世紀頃の
成立であることは確かだが、おそらくは古くからあったソースを改良したものに過ぎず、また、19 世紀前半のカレームのレシ
ピはヴルテを煮詰め、卵黄と煮詰めた生クリームでとろみを付けるというものだった。同様に 1867 年刊グフェ『料理の本』
レシピも、炒めた仔牛肉と野菜に小麦粉を振りかけてからブイヨン注ぎ、これを煮詰め、漉してから生クリームを加えるとい
うものだった。
4) ヴルテ訳注参照。
5) 小斉のこと。魚料理用ソース・エスパニョル訳注参照。
14 I.  ソース  Sauces
ブラウン系の派生ソース
   
ソース・ビガラード1)
Sauce Bigarade
仔鴨のブレゼ用 ……仔をブレゼ2)した際の煮
汁を漉してから浮き脂を取り除き3)煮詰める。
煮詰まったらさらに目の細かい布で漉し、ソー
1 L あたりオレンジ 4個とレモン 1個の搾り
汁でのばす。
仔鴨のポワレ用 ……仔をポワレ4)のフォンか
ら浮き脂を取り除き、でんぷんで軽くとろみ付
けする。砂糖 20 g に大さじ 1/2杯のヴィネガー
を加えて火にかけカラメル状にしたものを加え
る。ブレゼ用と同様に、オレンジとレモンの搾
り汁でのばす。
仔鴨のブレゼ用、ポワレ用いずれの場合も、細
かい千切りにしてよく下茹でしておいたオレン
ジの皮大さじ 2とレモンの皮5)大さじ 1を加え
て仕上げる。
ボルドー風ソース
Sauce Bordelaise
イン 3 dL にエトの
さじ 2、粗く砕いたこしょう、タイム、ローリ
エの葉 1/2枚を加えて火にかけ、1/4量になるま
で煮詰める。ソースエスパニョル 1 dL を加え
て火にかけ、浮いてくる夾雑物を丁寧に取り除
きな火で 15 る。の細
漉す。
溶かしたグラスドヴィアンド大さじ 1杯とレモ
ン汁 1/4個分、細かいさいの目か輪切りにして
ポシェしておいた牛骨髄を加えて仕上げる。
……牛、羊の赤身肉6)のグリル用
【原注】こんにちではボルドー風ソースをこの
ように赤ワインを用いて作るが、本来的には誤
りである。元来は白ワインが用いられていた
ボルドー風ソースボヌフォワ
後述。
ブルゴーニュ風ソース
Sauce Bourguignonne
上質の赤ワイン 11/2Lに、エシャロット 5
の薄切りとパセリの枝、タイム、ローリエの葉
1/2枚、マッシュルームの切りくず7)25 g を加え
て、半量になるまで煮詰める。布で漉し、ブー
ルマ80 g(バ45 g 小麦35 g
加えてとろみを付ける。提供直前にバター 150
gを溶かし込み、カイエンヌ8)ごく少量で加え
て風味よく仕上げる。
…いろいろな卵料理や、家庭料理に好適な
ソース。
ブルターニュ風ソース
Sauce Bretonne
中位の玉ねぎ 2個をみじん切りにして、バター
でブロンド色になるまで炒める。白ワイン 21/2
dL を注ぎ、半量になるまで煮詰める。ここに
ソースエスパニョル 31/2dL およびトマト
ソース同量を加える。78間煮立ててから、
1) ビガラードは本来、南フランスで栽培されるビターオレンジの一種。
2) 料理の仕立てとしてのブレゼはたんに「蒸し煮」することではない。原則的な手順をごく簡単に述べておく。厚めに輪切りに
したにんじんと玉ねぎをバターまたはラードで炒め、ブーケガルニとともに鍋に入れる。表面を色よく焼き固めた肉を、脂身
の少ない肉の場合には豚背脂のシートで包んで素材がぴったり入る大きさ鍋に入れ、茶色いフォンを注ぎ、蓋をしてオーブン
に入れ、微沸騰の状態を保つようにして煮込む。火が通ったら肉を取り出し、鍋に残った煮汁でソースを作る。詳細について
は第 7章 肉料理参照。
3) dégraisser デグレセ。
4) ポワレについても簡単に述べておく。本書においてポワレは「フライパンで焼く」という意味で用いられることは決してない
(フライパンで魚などを焼くことをポワレと呼ぶようになったのは 20 世紀後半のこと)本書では「ローストの一種」と定義さ
れており(この点がカレームとはまったく異なる)34mm 角に切った香味野菜(マティニョン)を生のまま鍋の底に入れ、
その上に味付けをした肉を置く。溶かしバターをかけてから、蓋をして中火のオーブンに入れて蒸し焼きにする。時折様子を
見て溶かしバターをかけてやること。肉に火が通ったら鍋から取り出し、茶色い仔牛のフォンを注いで弱火にかけて 10 分程煮
込み、マティニョンとして用いた野菜から風味を引き出してソースにする。これがレシピにある「ポワレのフォン」となる。
5) 柑橘類の表皮を薄く剥いてごく細い千切りにしたり、器具を用いておろしたものを zeste(ゼスト)と呼ぶ。千切りにしたもの
は苦味を取り除くために下茹ですることが多い。
6) 原文 viande noire de boucherie(ヴィヨンドノワールドブシュリ)逐語訳すれば「肉屋の赤身肉」noir(e) は黒の意だが肉の場
合は赤身肉を指す)だが、一般的に viande de boucherie(ヴィヨンドドブシュリ)とだけ言えば、伝統的に肉屋で扱かわ
れてきた、白身肉を除く畜産精肉のことで、具体的には牛、羊、場合によっては馬も含まれる(馬肉は食材としてあまり
的ではないが、専門店がある。副生物(内臓や足、耳、舌肉など)は含まれない。この場合の「白身肉」とは一般的に乳呑
仔牛、乳呑仔羊のことであり、鶏(およびその他の家禽)や豚は別扱いになる。ここでわざわざ viande noire 赤身肉と表現し
ているのは、19 世紀後半以降、上記のような区分がやや曖昧になったことによるものだろう。以下、本書の訳では viande de
boucherie の訳語として「牛、羊肉」をあてることにする。
7) 料理に使うマッシュルームは通常、トゥルネ(tourner 包丁を持った側の手は動かさずに材料を回して切ることからついた用
語)すなわち螺旋状に装飾して供するが、その際に少なくない量(具体的には重量で 1520 %)の切りくずが出るのでこれを
使う。
8) 赤唐辛子の粉末だがカイエンヌは本来、品種名。日本のタカノツメと比べると辛さもややマイルドで、風味も異なる。
ブラウン系の派生ソース 15
刻んだパセリを加えて仕上げる。
【原注】白いんげん豆のブルター
ニュ風以外にはほとんど使われない。
ソース・スリーズ1)
Sauce aux Cerises
ポルト酒 2 dL にイギリス風ミックススパイ
2)1と、
大さじ 1/2杯加えて 2/3量になるまで煮詰める。
グロゼイユのジュレ 21/2dL を加え、仕上げに
オレンジ果汁を加える。
……大型ジビエの料理用だが、鴨のポワレやブ
レゼにも用いられる。
ソース・シャンピニョン3)
Sauce aux Champignons
マッシュルームの茹で汁 21/2dL を半量になる
まで煮詰めるソースドゥミグラス 8 dL
加えて数分間煮立てる。布で漉し、バター 50 g
を投入して味を調え、あらかじめ下茹でしてお
いた小さめのマッシュルームの笠 100 g を加え
て仕上げる。
ソース・シャルキュティエール4)
Sauce Charcutière
提供直前に、ソースロベール 1 L に細さ 2 mm
程度で短かめの千切り5)にしたもの 100 g
える(ソース・ロベール参照)
ソース・シャスール6)
Sauce Chasseur
生のッシーム薄切した150 g
をバターで炒める。エシャロット7)のみじん切
大さ21/2杯を加えてさらに軽く炒め、白
ワイン 3 dL を注ぎ、半量になるまで煮詰める。
トマトソース 3 dL ソース・ドゥミグラス 2
dL を加える。数分間沸騰させたら、バター 150
gと、セルフイユ8)とエストラゴン9)をみじん切
りにしたもの大さじ 11/2杯を加えて仕上げる。
ソース・シャスール(エスコフィエ流)
Sauce Chasseur (Procédé Escoer)
生のッシーム薄切した150 g
、バターと植物油で軽く色付くまで炒める
みじん切りにしたエシャロット大さじ 1杯を加
え、なるべくすぐに余分な油をきる。白ワイン
2 dL とコニャック約 50 mL ぎ、
るまで煮詰める。ソースドゥミグラス 4 dL
トマトソース 2 dLグラスドヴィアンド大さじ
1/2杯を加える。
5分間沸騰させたら、仕上げにパセリのみじ
切り少々を加える。
茶色いソース・ショフロワ10)
Sauce Chaud-froid brune
(仕上がり 1 L 分)
ソース・ドゥミグラス 3/4Lとトリュフエッセ
ンス 1 dL、ジュレ 67 dL を用意する。
ソース・ドゥミグラスにトリュフエッセンスを
加えて、強火で煮詰めるが、この時に鍋から離
れないこと。煮詰めながらジュレを少量ずつ加
えていく。最終的に 2/3量程度まで煮詰める。
味見をして、ソースがショフロワに使うのに丁
度いい濃さになっているか確認すること。
マデイラ酒またはポルト酒 1/2dL を加える。
で漉し、ショフロワの主素材の表面に塗り付け
るのに丁度いい固さになるまで、丁寧にゆっく
り混ぜながら冷ます。
茶色いソース・ショフロワ(鴨用)
Sauce Chaud-froid brune pour Canards
1) cerise(スリーズ)さくらんぼの意。このレシピではグロゼイユ(すぐり)のジュレを用いるが、古くはさくらんぼを用いてい
たことからこの名称となったと言われている。
2) Mixed spice のこと。Pudding spice とも呼ばれる。シナモン、ナツメグオールスパイスの組み合わせが典型的。これにクロー
ブ、生姜、コリアンダーシード、キャラウェイシードなどが加わっていることも多い。
3) champignons キノコ全般を意味する語だが、単独で用いられる場合は champignons de Paris(シャンピニョンドパリ)いわゆ
るマッシュルームを指す。
4) シャルキュトリ(豚肉加工業)風、の意。Charcutrie の語源は char(肉)+cuite(調理された)+rie(業)。ハムやソーセージ
などと定番の組合せであるマスタードを使うソース・ロベールと、おなじく定番のつけ合わせであるコルニション(小さいう
ちに収穫してヴィネガー漬けにしたきゅうり。専用品種がある)を使うことに由来。
5) julenne(ジュリエーヌ)12mm 程度の細さの千切りにした野菜などのこと。調理現場によって「ジュリエンヌ「ジュリア
ン」(なぜか男性名)と呼ぶところもある。
6) 狩人風、の意。古くは猟獣肉をすり潰したものを使った料理を指したという説もある。マッシュルームとエシャロット、白ワ
インを使うのが特徴であり、このソースを使った料理にも「シャスール」の名が付けられる。
7) échalote 玉ねぎによく似ているが、小ぶりで水分が少なく、香味野菜としてよく用いられる。伝統的な品種は種子ではなく種
球を植えて栽培する。なお、日本でしばしば「エシャレット」の名称で流通しているものはラッキョウの若どりであり、フラ
ンス料理で用いるエシャロットとはまったく異なる。
8) cerfeuil 日本ではチャービルとも呼ばれるセリ科のハーブ。
9) estragon 日本ではタラゴンとも呼ばれるヨモギ科のハーブ。フランス料理ではとても好まれる重要なハーブのひとつ。フレン
チタラゴンとロシアンタラゴンの 2種がある。料理に用いるのはフレンチタラゴンであり、この品種は種子ではなく株分けや
挿し芽で殖やして栽培される。寒さには比較的強いが、日本の梅雨の湿度や夏の暑さには弱い。
10) choud-froid(ショフワ)chaud ショ「熱い、温かい」と froid フロワ「冷たい」の合成語で、火を通した肉や魚を冷ま
し、表にこース・シフロを覆うにり付け、らにュレ覆いた料理。料理発祥いて諸説
り、なかでもルイ 15 世に仕えていた料理長ショフロワ Chaufroix が考案したという説を支持してなのか、英語ではこの料理
Chaufroix と綴ることも多い。Chaud-froid の表記は 19 世紀後半には文献に見られる。なお、複数形chauds-froids と綴
る。トリュフの薄切りやエストラゴンなどのハーブその他で表面に華麗な装飾を施すことが 19 世紀には盛んに行なわれてい
た。現代でも装飾に凝った仕立てにするケースは多い。
16 I.  ソース  Sauces
作り方は上記、茶色いソース・ショフロワと同
様だが、トリュフエッセンスではなく、鴨のガ
ラでとったフュ11/2dL を用いること。また、
上記のレシピよりややしっかり煮詰めること。
ソースを布で漉したら、オレンジ 3個分の搾り
汁、とオレンジの皮をごく薄く剥いて細かい千
切りにしたもの1)大さ2杯を加える。オレン
ジの皮の千切りはしっかりと下茹でしてよく水
気をきっておくこと。
茶色いソース・ショフロワ(ジビエ用)
Sauce Chaud-froid brune pour Gibier
作り方は上記標準的なソース・ショフロワと同
じだが、トリュフエッセンスではなく、ショフ
ロワとして供するジビエのガラでとったフュ
2)2 dL を用いること。
トマト入りソース・ショフロワ
Sauce Chaud-froid tomatée
良質で、既によく煮詰めてあるトマトピュ1
Lを、さらに煮詰めながら 78 dL ジュレを
少しずつ加えていく。全体量が 1 L 以下になる
まで煮詰めること。
布で漉し、使いやすい固さになるまで、ゆっく
り混ぜながら冷ます。
ソース・シュヴルイユ
Sauce Chevreuil
標準的なソースポワヴラーと同様に作るが
1. マリネした牛羊肉の料理に添える場合3)は、
ハム入りのミルポワを加える。
2. ジビエ料理に添える場合は、そのジビエの端肉
を加える。
素材をヘラなどで強く押し付けるようにして漉
4)。良質の赤ワイン 11/2dL をスプーン 1
ずつ加えながら煮て、浮き上がってくる不純物
を丁寧に取り除いていく5)
最後に、カイエンヌごく少量と砂糖 1つまみを
加えて味を
ととの
調え、布で漉す。
ソース・コルベール6)
Sauce Colbert
メートルドテルバターグラスドヴィアンド
加えたもののことだが、正しくは「ブール・コ
ルベール」と呼ぶべきものだ7)
また、ブールコルベールとソースシャトーブ
リアンとの違いを明確にさせようとして、メー
トルドテルバターにエストラゴンを加える者
もいる。だが、必ずそうすべきということで
はない。実際、ブル・コルベーとソース・
シャトーブリアンは明らかに違うものだから
だ。ソース・シャトーブリアンは軽く仕上げた
グラスドヴィアントにバターとパセリのみじん
切りを加えたものである。一方、ブール・コル
ベールあるいはソース・コルベールと呼ばれて
いるものはあくまでもバターが主であって、グ
ラスドヴィアンドは補助的なものに過ぎない。
ソース・ディアーブル8)
Sauce Diable
このソースはごく少量ずつ作るのが一般的だ
が、ここではそれを守らずに、仕上り 21/2dL
として説明する
白ワイン 3 dL にエシャロット 3個分のみじん
切りを加え、1/3量以下になるまで煮詰める。
ス・ド2 dL
立たせ、仕上げにカイエンヌの粉末をたっぷり
効かせる9)
……鶏と鳩のグリルに合わせる。
【原注】白ワインではなくヴィネガーを煮詰め、
仕上げにハーブを加えて作る調理現場もある
が、著者としては本書で示しているの作り方が
いいと思う。
ソース・ディアーブル・エスコフィエ
Sauce Diable Escoer
1) zeste ゼスト。オレンジやレモンの皮の表面を器具を用いてすりおろすか、ナイフでごく薄く表皮を向き、細かい千切りにした
もの。ここでは後者を使う指定になっている。
2) ジビエのフォン参照。
3) chevreuil シュヴルイユはノロ鹿のことだが、このように事前にマリネした牛・羊肉を用いた料理にもこのソースを使い「シュ
ヴルイユ(風)(仕立て)
うた
謳う。1806 年刊ヴィアール『帝国料理の本』においてノロ鹿のフィレは香辛料を加えたワイン
ヴィネガーで 48 時間マリネしてから調理すると書かれている。オド『女性料理人のための本』では、確認出来た 1834 年の第
4版から 1900 年の第 78 版に至るまで、ノロ鹿の項において「一週間もヴィネガーたっぷりの漬け汁でマリネするのはやりす
ぎだが、強い味が好みなら 14日間」香辛料と赤ワインあるいはヴィネガーでマリネするといい、と説明されている。つま
り、ノロ鹿とは必ずマリネしてから調理するものという一種のコンセンサスがあったために、マリネした牛・羊肉の料理にも
「シュヴルイユ(風)」の名称が謳われるようになったと考えられる。
4) シノワ (ソース・エスパニョル訳注参照)などを用いる。
5) dépouiller デプイエ ≒ écumer エキュメ。
6) 17 世紀の政治家、ジャン・バティスト・コルベール(16191683)の名を冠したもの。
7) 具体的なレシピはブール・コルベール参照のこと。
8) diable(ディアーブル)悪魔の意。
9) 「たっぷり」という表現に惑わされないよう注意。
1) 現在は市販されていないと思われる。フランスにおいては未確認だが、1980 年代までアメリカ合衆国ではナビスコがソース・
ロベール・エスコフィエとともに瓶詰めを生産、販売していた。初版ではこれら 2つの製品への言及がなく、第二版で追加さ
れたことから、1903 年〜1907 年の間に製品化された可能性もある。また、第二版(1907 )と同年の英訳版、第三版(1912
年)にはソース・スリーズ・エスコフィエの記述が見られるが、これは第四版で削除されており、生産中止になったと思われ
る。エスコフィエ・ブランドの既製品ソースはさらに他にもあったようだが詳細は不明。なお、エスコフィエは 1922 年頃、
ジュリユス・マジがブイヨンキューブ(日本では「マギーブイヨン」の商品名)を開発する際にも協力した。
ブラウン系の派生ソース 17
このソースは完成品が市販1)されている。同量
の柔くしたバターを混ぜ合わせるだけでいい。
ソース・ディアーヌ2)
Sauce Diane
不純物を充分に取り除き、コクと風味ゆたかな
ソースポワヴラード 5 dL を用意する。提供
直前に、泡立てた生クリーム 4 dL(生クリーム
2 dL を泡立てて倍量にする)と、小さな三日月
の形にしたトリュフのスライスと固茹で卵の白
身を加える。
……大型ジビエの骨付き背肉および、その中心
部を円筒形に切り出したもの3)フィレ料理用。
ソース・デュクセル4)
Sauce Duxelles
白ワ2 dL とマッシュルームの茹で汁 2 dL
にエシャロットのみじん切り大さじ 2杯を加え
て、1/3る。ス・ド
1/2Lとトマトピュレ 11/2dLデュクセル・
セッシュ大さじ 4杯を加える。5分間煮立たせ、
パセリのみじん切り大さじ 1/2を加える。
…グラタンの他、いろいろな料理に用いら
れる。
【原注】ソースデュクセルはイタリア風ソー
スと混同されることが多いが、ソース・デュク
セルにはハムも、赤く漬けた舌肉も入れないの
で、まったく別のものだ。
ソース・エストラゴン5)
Sauce Estragon
(仕上がり 21/2dL 分)
白ワイン 2 dL を沸かし、エストラゴンの枝 20
gを投る。10 間、煎6)2
1/2dL ソース・ドゥミグラスまたは、とろみ
を付けた仔牛のジュを加え、約 2/3量になるま
で煮詰める。布で漉し、みじん切りにしたエス
トラゴン小さじ 1杯を加えて仕上げる。
……仔牛や仔羊の背肉の中心を円筒形に切り出
した料理や家禽料理用。
ソース・フィナンシエール7)
Sauce Financière
ソース・マデール 11/4L3/4量以下になるま
で煮詰め、火から外してトリュフエッセン1
dL を加える。布で漉して仕上げる。
……ル・フ
が、その他の肉料理にも用いられる。
香草ソース8)
Sauce aux Fines Herbes
白ワイン 3 dL を沸かし、パセリの葉、セルフイ
ユ、エストラゴン、シブレットを各 1つまみ強、
入する。20 分間煎じる。布で漉しソー
ス・ドゥミグラスまたはとろみを付けた仔牛の
ジュ 6 dL を加える。仕上げに、煎じるのに使っ
たのと同じ香草を細かく刻んだもの計、大さじ
21/2杯とレモンの搾り汁少々を加える。
【原注】古典料理ではこの「香草ソース」ソー
ス・デが、
こんにちではまったく違うものとして扱われて
いる。
ジュネーヴ風ソース
Sauce Genevoise
鍋にバターを熱し、細かく刻んだミルポワを色
付かないよう強火でさっと炒める。ミルポワの
材料は、にんじん 100 g、玉ね80 g、タイム
とローリエ少々、パセリの枝 20 g。そこにサー
モンの頭 1 kg と粗く砕いたこしょう 1つまみ
を入れ、蓋をして弱火で 15 分程蒸し煮する。
鍋に残ったバターを捨て、赤ワイン 1 L を注ぐ。
半量になるまで煮詰める。そこに魚料理用ソー
ス・エスョル 1/2L加える。火で 1
間煮込む。漉し器を使い、材料を押しつけなが
ら漉す。しばらく休ませてから、表面に浮いた
2) ローマ神話の女神ディアーナのこと。ギリシア神話のアルテミスに相当し、狩猟、貞潔の女神。また月の女神ルーナ(セレー
ネー)と同一視された。ここでは大型ジビエ料理用のソースであるから、狩猟の女神という意味合いが強い。
3) noisee ノワゼット。
4) デュクセル・セッシュ(第 2章ガルニチュール)を用いることからこの名称が用いられている。
5) ヨモギ科のハーブ。ソース・シャスール訳注参照。
6) infuser(アンフュゼ)煮出す、煎じる、の意。なおハーブティはこの派生語 infusion(アンフュジオン)と呼ぶ。
7) Financier 徴税官(財務官)風の意。フランス革命以前の徴税官は、王に代わって徴税を行なう大貴族が就く役職であり、膨大
な利権によりきわめて裕福であったという。このソースと組み合わせるガルニチュール・フィナンシエールが、雄鶏のとさか
と睾丸、仔羊の胸腺肉、トリュフなどの比較的入手困難あるいは高級とされる食材で構成されていることが名称の由来と思わ
れる。ブリヤ=サヴァランは『美味礼讃』(味覚の生理学)において、徴税官たちは旬のはしりの食材を真っ先に食べられる、
いわば特権階級だと述べている。なお、カレーム『19 世紀フランス料理』においては、ソースとガルニチュールを分離せず、
「ラグー・アラ・フィナンシエール」として採りあげられているが、全ての素材を別々に加熱調理してソースと合わせるもの
であり、いわゆる「煮込み」とは呼びがたいものとなっている。フランス料理の影響が比較的強かった北イタリアにこの原型
に近いと思われるラグー「ピエモンテ風フィナンツィエラ」がある。鶏のとさか、肉垂、睾丸、鶏レバーおよび仔牛の胸腺肉
などを煮込んだものだが、レシピを読む限りにおいては比較的庶民的あるいは農民的料理に変化したものと思われる (cf. Anna
Gosei della Salda, Le Ricee Regionali Italiane, Milano, Solares, 1967, p.57.)。ちなみに焼き菓子のフィナンシエ nancier も同
語源だが、何故その名称になったかは不明。
8) 料理名では、いわゆる「ハーブ」についてかつて nes herbes の表現が多く用いられた。だが、こんにちでは特定のハーブ名を
ソースや料理名に添えて言うことが多い。例えば Côtelee de veau au thym コトレットドヴォオタン (仔牛の骨付き背肉、タイ
ム風味)Filet de bar poêlé, compote de tomate au basilic フィレドバールポワレコンポットートドトマトバジリック(スズキ
のフィレとトマトのコンポート、バジル風味)など。また、栽培レベルで「香草、ハーブ」の総称としては herbes aromatiques
(エルブザロマティック)、あるいはたんに aromatiques(アロマティック)が一般的。
18 I.  ソース  Sauces
油脂を取り除く1)
さらに赤ワイン 1/2Lと、魚のフュメ 1/2Lを加
える。ソースの表面に浮いてくる不純物を徹底
的に取り除き2)、丁度いい濃さになるまで煮詰
める。
これを布で漉し、静かに混ぜながら、アンチョ
ヴィのエッセンス大さじ 1杯とバター 150 g
加えて仕上げる。
……サーモン、鱒料理用。
【原注】このソースはもともとカレームが「ジェ
ノヴァ風」
3)と名付けたものだが、その後ルキュ
レ、グ4)て続に「ジネー風」の
名称を用いた。だが、ジュネーヴは赤ワインの
産地ではないから理屈としてはおかしい5)
え、
で、
そのままにしている。だが、ジュネーヴ風であ
れ、ム、レ、
デュボワ、グフェはいずれもこのソースに赤ワ
インを用いるよう指示している。つまり赤ワイ
ンを用いることがこのソースのポイント。
ソース・ゴダール6)
Sauce Godard
シャンパーニュまたは辛口の白ワイン 4 dL
ス・
ドゥミグラス 1 L とマッシュルームのエッセン
2 dL を加る。弱火に 10 かけ、ノワ7)
で漉す。
2/3量になるまで煮詰め、布で漉す。
……ガルニチュール ゴタール用。
ソース・グランヴヌール8)
Sauce Grand-Veneur
大型ジビエのフュメで澄んだ色合いに作った
ソース・ポワヴラードに、ソース 1 L あたり野
うさぎの血 1 dL をマリネ液 1 dL で薄めたもの
を加える。
火をごく弱くして、血が沸騰しないよう気をつ
けながら数分間煮る。布で漉す。
ソース・グランヴヌール(エスコフィエ流)
Sauce Grand-Veneur (Procédé Escoer)
軽く仕上げたソース・ポワヴラード 1 L あたり
グロゼイユのジュレ大さじ 2杯と生クリーム 2
1/2dL を加える。
……上記 2つのソースは鹿、猪などの大きな塊
肉の料理に用いる。
ソース・グラタン9)
Sauce Gratin
白ワインと、このソースを合わせる魚のアラな
とっ3 dL
のみじん切り大さじ 11/2杯を加え、半量以下
になるまで煮詰める。
デュクセル・セッシュ大さじ 3杯と、魚料理用
ソース・エスパニョルまたはソース・ドゥミグ
ラス 5 dL 加える。56分間煮立たせる。提
供直前に、パセリのみじん切り大さじ 1/2を加
えて仕上げる。
1) dégraisser デグレセ。レードルなどを用いて浮いてきた余計な油脂を取り除く作業。
2) dépouiller デプイエ ≒ écumer エキュメ。
3) Sauce à la génoise au vin de Bordeaux ボルドー産ワインを用いたジェノヴァ風ソース (19 世紀フランス料理』3巻、80 )
本書のこのレシピと同様に魚料理用ソースだボルドーの赤ワインにみじん切りにして下茹でしたマッシュルーム、トリュフ、
エシャロットを加えてオールスパイスとこしょう少々を入れ、適度に煮詰める。ソース・エスパニョルと赤ワインを加え、湯
煎にかけておく。提供直前にバター少量を加えて仕上げる、というもの。本書においてこのソースを「原型」とするのには疑
問が残るところだろう。
4) グフェ『料理の本』1867 年)420 ページにあるジュネーヴ風ソースは、薄切りにした玉ねぎ、エシャロット、粗挽きこしょ
う、にんにく、バターを鍋に入れて色付くまで炒め、そこにブルゴーニュ産赤ワインを注ぐ。弱火で玉ねぎに火が通るまで煮
る。ソース・エスパニョルと仔牛のブロンドのジュを加えて煮詰め、布で漉す。提供直前にマデイラ酒の風味を加えて茹でた
トリュフのみじん切りとアンチョビバターを加える、というもの。赤ワインと玉ねぎ、仕上げにアンチョビを加える点は共通
しているが、グフェのが肉料理用であるのに対して、本書のこのソースは明らかに魚料理用であり、まったく同じソースと呼
べるとは言い難い。
5) 料理名に冠された地名は、由来が明確にあるものがある一方で、まったく意味不明か、あるいはいい加減な思い付きで付けら
れたのではないかとさえ思われるものも少なくない。(à la) russe「ロシア風」や (à la) moscovite「モスクワ風」などはロシア
料理起源か、あるいは 18 世紀末〜19 世紀前半にかけてロシア帝国の宮廷や貴族がこぞってフランスから料理人を招聘し、帰
国した彼らが創案した料理などはある程度しっかりとした由来がわかるものも多い。一方で、(à l’)espagnole「スペイン風」
l’)italienne「イタリア風」(à la) romaine「ローマ風」(à la grecque)「ギリシア風」(à l’)allemande「ドイツ風」(à l’)hollandaise
「オランダ風」などは由来の不明なケースが非常に多い。ソース・エスパニョルなどはその典型例とも言うべきものだろう。
の原注では由来に非常にこだわっているが、そもそもカレームのレシピは上述のように「ボルドー産ワインを用いたジェノバ
風ソース」であるから、赤ワインの産地かどうかということは実はさしたる問題にはならない。重要なのは後半の、赤ワイン
を用いることがこのソースのポイントということ。
6) ガルニチュールゴダールの構成要素がガルニチュール・フィナンシエールとよく似ている点などから、おそらくは 18 世紀の
徴税官(つまりフィナンシエ)であり作家としても活動したクロード・ゴダール・ドクール Claude Godard d’Aucour1716
1795)の名を冠したものと考えられる。なお、底本とした現行版(第四版)では最後が dではなく tとなっているが、初版か
ら第三版にいたるまで dとなっており、現行版は明らかな誤植。
7) ソース・エスパニョル訳注参照。
8) 王家や貴族に仕える狩猟長のことを grand-veneur(グランヴヌール)と呼ぶ。
9) 魚のグラタン用ソースだが、グラタンの技術的ポイントについては7章「肉料理」のグタランの項目参照。
ブラウン系の派生ソース 19
……舌びらめ、メルラン1)バルビュ2)のフィレ
などのグラタン用。
ソース・アシェ3)
Sauce Hachée
玉ねぎの細かいみじん切り 100 g 、エシャ
ロットの細かいみじん切り大さじ 11/2
ターで色付かないよう炒める。ヴィネガー 3 dL
を注ぎ、半量まで煮詰める。ソースエスパニョ
4 dL トマトソース 11/2dL を加える。5
6分煮立たせる。
ハムの脂身のない部分を細かく刻んだもの大さ
11/2杯と小ぶりのケイパー大さじ 11/2杯、
[デュクセルセッシュ]大さじ 11/2杯、
リのみじん切り大さじ 1/2杯を加えて仕上げる
……このソースはソース・ピカントと等価のも
のと考えていい。用途も同じ。
魚料理用ソース・アシェ
Sauce Hachée maigre
上記と同様に、玉ねぎとエシャロットを色付か
ないようバターで炒め、ヴィネガーを注いで煮
詰める。
クールブイヨン 5 dL ぎ、茶色いルー
45 g またはブールマニエ 50 g でとろみを付け
る。弱火で 810 分間煮込む。
提供直前に、細かく刻んだハーブミックス大さ
1杯とデュクセル・セッシュ大さじ 11/2杯、
小粒のケイパー大さじ 11/2杯、アンチョヴィ
ソース大さじ 1/2杯とバター 60 g、または 80
100 g のアンチョヴィバターを加えて仕上げる。
……エイのような、あまり高級ではない茹でた
4)用。
ソース・ユサルド5)
Sauce Hussarde
22個を細かくみじ
ん切りにして、バターで色よく炒める。白ワイ
4 dL を注ぎ、半量になるまで煮詰める。ソー
ドゥミグラス 4 dL とトマトピュレ大さじ 2
杯、白いフォン 2 dL生ハムの脂身のないとこ
80 g潰したにんにく 1片、ブーケガルニを
加える。弱火で 2530 分煮込む。
ハムを取り出して、ソースをスプーンで押すよ
うにして布で漉す。
火にかけて温め、小さなさいの目6)に刻んだハ
ムと、おろしたレフォール7)々、パリの
じん切りをたっぷり 1つまみ加えて仕上げる。
……牛、羊肉のグリルまたは串を刺してロース
トしてアントレ8)として供する際に用いる。
イタリア風ソース9)
Sauce Italienne
トマトの風味の効いたス・ド
3/4Lに、デュクセル・セッシュさじ 4杯と、
加熱ハムの脂身のないところを小さなさいの目
に切ったもの 125 g を加える。56分間煮る。
提供直前に、パセリとセルフイユ、エスゴラゴ
ンのみじん切り大さじ 1杯を加えて仕上げる。
……いろいろな肉料理に合わせる。
【原注】このソースを魚料理に合わせる場合、
ムは使わずに魚のフュメを煮詰めて加える。
とろみを付けたジュ エストラゴン風味
Jus lié à l’Estragon
仔牛のフォンまたは鶏のフォンに、エストラゴ
50 g を加えて香りを煮出し10)たもの。
布で漉してから、アロールート11)または、でん
ぷん 30 g でとろみを付ける。
……白身肉のノワゼットや家禽のフィレなどに
添える。
とろみを付けたジュ トマト風味
Jus lié tomaté
仔牛のフォン 1 L あたりトマトエッセンス 3 dL
を加え、4/5量まで煮詰める。
……牛、羊肉料理用。
リヨン風ソース
Sauce Lyonnaise
中位きさ3個をん切し、
1) タラの近縁種。
2) 鰈の近縁種。この場合のフィレはいわゆる「五枚おろし」にしたもの。
3) 細かく刻んだもの、の意。
4) 原文 poissons bouillisこのフランス語の表現だと加熱する際に沸騰させているニュアンスがあるが、本書の「魚料理」の章に
おいて、魚を塩を加えて茹でる、あるいはクールブイヨンで煮る際に、沸騰しない程度の温度で加熱(ポシェ pocher)すべき
と強調されている。この表現は初版からのものであり、恐らくはこのソースの部分を実際に執筆した者と、魚料理の説明部分
を執筆した者が異なることによるわかりにくさ、という可能性も排除出来ない。いずれにしても、このソースの場合は、合わ
せる魚をクールブイヨンで沸騰しない程度の温度で加熱(ポシェ)し、そのクールブイヨンの一部をソースに加えていること
から、単に「茹でた魚」と言っても、本書における魚の加熱方法に則った調理をすべきと解されよう。
5) もとはハンガリーで農家 20 戸につき 1の割合で招集された騎兵 hussard を指す。この語は 16 世紀まで遡ることが出来るが、
のちに「乱暴者」といったニュアンスでも使われるようになった。à la hussarde は「乱暴に、粗野に」の意味でも用いられる
が、料理においてはレフォールを使ったものに名付けられることが多い。
6) brunoise ブリュノワーズ。
7) raifort(レフォール)いわゆる西洋わさび、ホースラディッシュ。
8) 通常、ローストは料理区分としてアントレに含められることはないが、牛フィレは牛の部位のなかでも比較的小さいものとし
て、まるごと 1本のローストであっても原則的にはアントレに分類される。このソースを用いる「牛フィレ ユサルド」は牛
フィレの塊に串を刺してローストし、ポム・デュシェスとマッシュルームを合わせる。
9) この「イタリア風」には根拠も由来も見出すことが出来ない。地名、国名を料理名に冠した代表例のひとつ。
10) imfuser アンフュゼ。
11) コーンスターチで代用する。
20 I.  ソース  Sauces
バターでじっくり、ごく弱火でブロンド色にな
るまで炒める。白ワイン 2 dL とヴィネガー 2
dL を注ぐ。1/3量まで煮詰め、ソース・ドゥミ
グラス 3/4Lを加える。56分かけて表面に浮
いてくる不純物を丁寧に取り除き1)布で漉す。
【原注】このソースを合わせる料理によっては、
ソースを布で漉さずに玉ねぎを残してもいい。
ソース・マデール
Sauce Madère
ソース・ドゥミグラを煮2)、火から外し
て、ソース 1 L あたりマデイラ酒 1 dL の割合で
加え、普通の濃度にする。
ソース・マトロット3)
Sauce Matelote
魚をポシェするのに使った赤ワイン入りの魚用
ルブ3 dL ッシ
くず 25 g を加え、1/3量になるまで煮詰める。
煮詰めたら魚料理用ソースエスパニョル 8 dL
を加えてひと煮立ちさせる。布で漉し、バター
150 g ごく量のエンの粉を加
仕上げる。
ソース・モワル4)
Sauce Moelle
ソースの作り方はボルドー風ソースとまったく
同じだが、バターを加えるのは何らかの野菜料
理に添える場合のみであり、その場合のバター
の量は通常どおりとするこ。
どんな場合にせよ、仕上げに、小さなさいの目
に切ってポシェしておいた骨髄をソース 1 L
150180 g および刻んで下茹でしたパセ
リの葉小さじ 1杯を加える。
モスクワ風ソース5)
Sauce Moscovite
大型ジビエのフュメス・ポ
ラード3/4L用意する。提供直前にマラガ酒
1 dL とジェニパーベリーを煎じた汁 7 cL6)、焼
いた松の実かスライスして焼いたアーモンド
40 g、大きさを揃えてぬるま湯でもどしておい
たコリント産干しぶどう 7)40 g
げる。
……大型ジビエ8)の塊肉の料理用。
ソース・ペリグー9)
Sauce Périgueux
やや濃いめに煮詰めたス・ド
3/4Lに、トリュフエッセンス 11/2dL と細かく
刻んだトリュフ 100 g を加える。
……いろいろな肉料理、タンバル、温製パテに
合わせる。
ソース・ペリグルディーヌ10)
Sauce Périgourdine
ソース・ペリグーのバリエーション。トリュフ
を細かく刻むのではなく、オリーブ形か小さな
真珠のような形状にナイフで成形11)
を加える。トリュフを厚めにスライスして加え
る場合もある。
ソース・ピカント12)
Sauce Piquante
3 dL 3 dL
シャ切り21/2を合
せて半量に煮詰める。
ソースエスパニョル 6 dL を加え、浮いてくる
不純物を取り除きながら13)10 分間煮る。
火から外し、コルニション14)、パセリ、セルフ
イユ、エストラゴンを細かく刻んだもの大さじ
2杯を加えて仕上げる。
1) dépouiller デプイエ。現代ではエキュメと呼ぶ現場が多い。
2) ソース・ドゥミグラスは既に煮詰めて仕上がった状態のものなので、9割程度にまでしか煮詰めないことに注意。
3) 水夫風、船員風、の意。トゥーレーヌ地方の郷土料理 Matelote d’anguille(マトロットダンギーユ)うなぎの赤ワイン煮込み、
が有名。とはいえ本書にも数種のレシピが収録されているように、赤ワイン煮込みにとどまらず、マトロットの名称を持つ料
理は他にも複数存在する。
4) moelle 骨髄のこと。
5) moscovite(モスコヴィット)すなわちモスクワ風の名称を持つ料理や菓子は多い。18 世紀後半から 19 世紀前半にかけて、ロ
シアの宮廷や貴族らの間でフランスの食文化が流行し、多くのフランス人料理人が招聘され、彼らはロシア料理のレシピをフ
ランスに持ち帰った。クーリビヤックなどが代表的な例だろう。また、19 世紀後半になると、とりわけフランス料理において
もロシア料理からの影響が多く見られるようになる。キャビアとウォトカを食前に愉しむのが流行したのもその時代からであ
る。フランスとロシアの食文化は相互に影響関係にあったと言えよう。
6) 1 cL(センチリットル)= 10 mL、つまりこの場合は 70 mL
7) 小粒で黒いギリシア産干しぶどう。
8) venaison ヴネゾン。ジビエのうち大型のものを指す。実際はノロ鹿や猪を指すことがほとんど。
9) トリュフの産地として有名なペリゴール地方の町の名。
10) périgourdin(e)(ペリグルダン/ペリグルディーヌ)ペリゴール地方風の意。
11) tourner トゥルネ。包丁を持っている側の手は動かさずに材料を回すようにして形を整えること。
12) piquant(e)(ピカン、ピカント)一般的には唐辛子などが「辛い」の意だが、このソースでは唐辛子の類は使われておらず、む
しろ酸味の効いたソースと言えよう。古くからのソース名。
13) dépouiller デプイエ。エキュメ écumer と呼ぶ現場も多い。
14) 専用品種のきゅうりを小さなうちに収穫して酢漬けにしたもの。同様のピクルス用きゅうりとしてガーキンスという品種系
統があるがもっぱらアメリカのハンバーガーに挟まれるようなサイズで収穫して漬けたものであり、フランス料理では用い
ない。
1) bouilli 茹で肉。もとはブイヨンをとった後の茹で肉のことを指した。単純に「茹でた肉」としてもいいのだが、17 世紀にはこ
の食べ方が流行したという歴史もあり、野菜などと共に、あるいは他の素材なしに茹でた肉はたんに「ブイイ」bouilli と呼ば
ブラウン系の派生ソース 21
……豚のグリルき、ブ1)、ローストに
よく合わせるソース。牛肉のブイイや牛や羊の
エマンセにも合わせることが出来る。
ソース・ポワヴラード2)標準
Sauce Poivrade ordinaire
細かいさいの目に切ったにんじん 100 g と玉ね
80 g、刻んだパセリの茎、タイム少々、ロー
リエの葉少々からなるミルポワを油で色付くま
で炒める。
ヴィネガー 1 dL とマリナード 2 dL を注ぎ、1/3
量になるまで煮詰める。ソース・エスパニョル
1 L を注ぎ、約 45 分間煮込む。
ソースを漉す 10 分前に、大粒のこしょう 8
を叩きつぶして加える。ソースにこしょうを入
れてからの時間がこれ以上少しでも長いと、こ
しょうの風味が支配的になり過ぎることになる
ので注意。
漉し器で香味素材を軽く押すようにして漉す。
マリナード3)2 dL でソースをのばす。火にかけ
35 分間、所定の量4)になるまで煮詰めな
ら、
除く5)
さらに布で漉し、バター 50 g を加えて仕上
げる6)
ソース・ポワヴラード(ジビエ用)
Sauce Poivrade pour Gibier
細かいさいの目に切ったにんじん 125 g と玉ね
125 g、タイムの枝と鳥類ではないジビエ7)
1 kg を油で色よく炒
める。
ミルポワが色付いてきたら、鍋の油を捨てる
ヴィネガ3 dL と白ワイン 2 dL を注ぎ、完全
に煮詰める。
ソースエスパニョル 1 L ジビエの茶色い
フォン 2 Lマリナード 1 L を加える。
鍋に蓋をして弱火にかける。可能ならオーブン
がいい。3時間半〜4時間加熱する。
ソースを漉す 8分前に、大粒のこしょう 12
を叩きつぶして加える。
漉し器で材料を押すようにして漉す。
これをジビエのフォン 1/4Lとマリナード 1/4L
でのばし、再び火にかけて 40 分間、表面に浮
いてくる不純物を丁寧に取り除きながら1 L
になるまで煮詰める。
これを布で漉し、バター 75 g を加えて仕上
げる。
【原注】一般的にはジビエ料理のソースにはバ
ターを加えないことになっているが、本書では
軽くバターを加えることを推奨する。そうする
と、ソースの色の赤みは薄まるが、繊細で滑ら
かな口あたりに仕上がる。
ソース・ポルト
Sauce au Porto
て、
ス・マデールと同様に作る。
ポルトガル風8)ソース
Sauce Portugaise
(仕上がり 1 L 分)
大きめの玉ねぎ 1個を細かくみじん切りにす
る。鍋に油を熱し、強火で玉ねぎを炒める。玉
ねぎがブロンド色になったら、皮を剥いて種子
を取き、粗ん切した750 g
と、つぶしたにんにく 1片、塩、こしょうを加
える。トマトの酸味が強い場合は砂糖少々も加
れる。
2) このソースは遅くとも 16 世紀まで遡ることが出来る。1505 年に出版された『フランス語版プラティナ』poivrade というフ
ランス語の初出。この本において「ジビエ用こしょうのソース、ポワヴラード」Saulce de poyvre ou poyvrade pour saulvagie
としてレシピが見られる。パンをよく焼いてヴィネガーに浸してすり潰す。水でもどした干しぶどうと獣の血を加えて混ぜ、
玉ねぎと未熟ぶどう果汁、パンを浸した残りのヴィネガーを加えて漉し器か布で漉す。これを鍋に入れ、こしょう、生姜、シ
ナモンを入れて炭火の上30 分程煮込む。獣の肉を獣脂を熱したフライパンで焼き、皿に盛る。上からポワヴラードをか
て供する、という内容(f.LXII。またこの本には、魚料理用のポワヴラードも掲載されている。ただし、これが現代まで続く
ソース・ポワヴラードの原型と捉えるのは早計に過ぎる。ここで注目すべきは、最終的に肉あるいは魚のような主素材とソー
スが一体化したものは中世〜ルネサンス期にはポタージュと呼ばれていたのに対し、ここではソースを別のものと捉えている
点である。ポワヴラードという語そのものは「こしょうを効かせたもの」という意味に過ぎず、1660 年刊ピエール・ド・リュ
Pierre de Lune『新フランス料理』における Poivrade de pigeonneaux 若鳩のポワヴラードは、背開きにした若鳩を平たく
のばし、塩、こしょうをして弱火でグリルする。薔薇の香りもしくはにんにく風味のヴィネガーを添えて供する、というもの
(p.190)。ピエール・ド・リュヌのレシピにおいてソースに相当するものはヴィネガーであり、むしろ味付けでこしょうを効か
せているということが料理名の根拠となっているに過ぎない。ちなみに、生食可能な小さなサイズのアーティチョークも古く
からポワヴラードと呼ばれている。
3) ヴィネガーやワイン、香味素材、塩などを合わせて肉を漬け込む液体。マリネ液と呼ぶこともある。
4) 明記されていないが、ここでは約 1 L
5) dépouiller デプイエ。現代では écumer エキュメの語を使う現場が多い。
6) 現代では、バターでモンテする monter au beurre という表現を用いる現場も多い。
7) gibier à poil 逐語訳すると「毛の生えているジビエ」すなわち」鹿、猪、野うさぎなどを指す。
8) 日本でもフランス語のままソース・ポルチュゲーズと呼ばれることは多い。フランス料理においてポルトガル風の名称を付け
た料理はトマトをベースとしたものがほとんど。ただし、トマトを使うからといってポルトガル風の名が必ず付くというわけ
ではない。
1) 仕上がりの全体量が 1 L なので、トマトソースを加える量は、グラスドヴィアンドを加える前の段階で 0.9 L 程度になるよう調
整する。
22 I.  ソース  Sauces
える。鍋に蓋をして、弱火で煮る。トマトエッ
センス少々と、薄めに作ったトマトソースを適
1)温めて溶かしグラスドヴィアンド 1 dL
新鮮なパセリの葉のみじん切り大さじ 1杯を加
えて仕上げる。
プロヴァンス風ソース
Sauce Provençale
大ぶマト 12 き、つ
子は取り除いて、粗く刻む2)。ソテー鍋に 21/2
dL の油を熱し、そこにトマトを入れる。塩、
しょう、粉砂糖 1つまみで味を調える。しっか
りつぶしたにんにく(小1片と細かく刻んだ
パセリ小さじ 1杯を加える。
蓋をして弱火で 30 分間程、煮溶かす。
【原注】このソースについてはさまざまな解釈
があるが、本書ではブルジョワ料理における本
物の「プロヴァンス風ソース」のレシピ、つま
りはトマトの「フォンデュ」
3)、を収録した。
ソース・レジャンス4)
Sauce Régence
ライン産ワイ3 dL に、細かく刻んであらかじ
を通1 dL
フの切りくず 25 g を加え、半量になるまで煮詰
める。トリュフのシーズンでない時季はトリュ
フエッセンスを使う。ソース・ドゥミグラス 8
dL を加え、数分間弱火にかけて浮いてくる不
純物を丁寧に取り除き5)、布で漉す。
……牛、羊の大きな塊肉の料理用。
ソース・ロベール6)
Sauce Robert
(仕上がり 5 dL 分)
し、
ターで色付かないよう強火でさっと炒める。
白ワイン 2 dL 注ぎ、1/3量になるまで煮詰め
る。ソースドゥミグラス 3 dL を加え、弱火で
10 分間煮る。
シノワ7)で漉し(これは任意。漉さなくてもい
い)火から外して、粉砂糖 1つまみとマスター
ド大さじ 1杯を加えて仕上げる。
ソース・ロベール・エスコフィエ
Sauce Robert Escoer
このソースは完成品が市販されている8)
温かい料理にも冷たい料理にもよく合う。温か
い料理に合わせる場合は、同量の仔牛の茶色い
フォンと混ぜること。
……豚、仔牛、鶏、魚のグリル焼きに特によく
合う。
ローマ風9)ソース
Sauce Romaine
50 g を火にかけてブロンド色にカラメリ
10)する。これをヴィネガー 11/2dL でのばす。
砂糖を完全に溶かし込めたら、ソース・エスパ
2) concasser コンカセ。
3) 加熱によって溶かしたもの、の意。このレシピはあくまでも「ソース」であり、料理を作る際のアパレイユ≒ パーツとしての
いわゆるトマトフォンデュについては第 2章ガルニチュール、温製ガルニチュール用のアパレイユなど、の項を参照。
4) Régence(レジョンス)はこの場合固有名詞としての「摂政時代」を指す。すなわちオルレアン公フィリップがルイ 15 世の幼
少期に摂政を務めていたた時代(17151723 年)のこと。オルレアン公は美食家として有名で、とりわけシャンパーニュを好
んだという。この時期はフランス宮廷料理の絶頂期でもあった。
5) dépouiller デプイエ ≒ écumer エキュメ。
6) この名称のソースは古くからある。文献で初めて出てくるのは 16 世紀フランソワ・ラブレーの小説『ガルガンチュアとパン
タグリュエル』。その「第四の書」で料理人の名が大量に列挙される章がある。そのうちの多くは架空の人名だが、その中の
ロベールという料理人がこのソースを考案したと書いている。ただし、具体的にどのようなソースかまでは描写されておらず
「うさぎのロースト、鴨、加工していない豚肉、卵のポシェ、塩漬けのメルラン [鱈の近縁種]その他まことに多くの料理に欠
かせないソース」と書いてあるのみ(第 40 章)どんな料理にも合うと書かれてしまうとむしろ特徴を捉え難くなってしまう。
いずれにせよ、遅くとも 16 世紀には「ソース」として成立していたと考えられる。また、17 世紀のシャルル・ペロー著『物語
集』の「眠れる森の美女」においても、このソース名が登場する一節がある。このように 16 世紀以降多くの文学作品をはじめ
とする文献にこのソース名は見られる。レシピとしては、1651 年刊ラ・ヴァレーヌ『フランス料理の本』における「豚腰肉 
ソース・ロベール添え」がもっとも古いもののひとつだろう。概略は、豚腰肉を、ヴェルジュ [未熟ぶどう果汁、中世料理にお
いてよく用いられた]とヴィネガー、セージを振り掛けながらローストする。下に置いた脂受け皿に焼いた豚肉から流れ落ち
た脂がたまるので、これを使って玉ねぎをこんがり炒める。炒めた玉ねぎの上に豚後ろ身を載せ、豚腰肉をローストする際に
かけたのと同じソースをかける。このソースはソースロベールと呼ばれている (p.51)。また、干鱈のソース・ロベール添えの
場合は、バターとヴェルジュ少々、マスタードで作るが、ケイパーやシブール []を加えてもいい (p.202) とあり、同じ名称
のソースとは見做しがたい。18 世紀以降のソース・ロベールは多かれ少なかれいずれもマスタードを加える点が共通している
ので、名称が先にあり、内容が時代とともにはっきりしたものになっていたのだろう。
7) 主として金属製で円錐形に取っ手の付いた漉し器。清朝の高級役人がかぶっていた帽子の形状から「中国の」を意味する
chinois の名称となったと言われている。
8) ソース・ディアーブル・エスコフィエ訳注参照。
9) フランス料理における「ローマ風」の名称は「イタリア風」と同様にとくに根拠や由来が見出せないものが多い。このソース
の場合は松の実を使うところから、20 世紀前半に活躍したイタリアの作曲家レスピーギのローマ三部作のうちの「ローマの
松」を想起させるが、残念ながらこの曲が作曲されたのは 1924 年、つまり本書より後なので関係はない。だが、松の実を採る
イタリアカサマツは、アッピア街道の並木などで有名なように、イタリアとりわけローマ近辺において多く見られる(だから
こそレスピーギが曲の題材にしたわけだが)その意味においては、松の実を使っているということがこのソース名の根拠と見
ることも不可能ではないだろう。しかしながら、それを証明する文献、史料があるかは不明。
10) 焦がさないように弱火で混ぜながら熱で砂糖を溶かしていく。
ブラウン系の派生ソース 23
ニョル 6 dL ジビエのフォン 3 dL を加える。
これを 3/4量弱まで煮詰める。布で漉し、松の
20 g をローストしたものと、大きさが揃る
よう選別したスミヌル干しぶどう1)20 g およ
コリント干しぶとう2)20 g を温湯でもどしたも
のを加えて仕上げる。
【原注】上記のとおり作る場合このソースは大
型ジビエ料理用だが、ジビエのフォンではなく
茶色を使えば、マリネした牛
羊肉の料理に合わせることも可能。
ルーアン風3)ソース
Sauce Rouennaise
(仕上がり 5 dL 分)
ボルドー風ソース 4 dL を用意する。ただし、
質な赤ワインを使って作ることボルドー風
ソース参照)
中位きさレバ3裏漉る。
こうして出来たレバーのピュレをソースに加
え、沸騰させない程度の温度で火を通す4)
対に沸騰させないこと。沸騰させてしまうと途
端にレバーのピュレが粒状になってしまう。
布で漉し、塩こしょうを効かせる。
このソースの特質……エシャロットを加えた赤
ワインを煮詰めたものに鴨の生レバーのピュレ
を加えたもの。
……ルーアン産鴨のローストには、いわば必須
といってもいいソース。
ソース・サルミ5)
Sauce Salmis
ソースというよりはむしろクリ6)と呼んだほう
がいいこのソースの作り方はどんな場合も一点
を除いて変わることがない。それは、このソー
スを合わせるジビエ(鳥)の種類によって、つ
まり普通に肉料理として扱えるジビエか、肉断
7)の際の食材として扱えるもの8)かで、どん
な液体を用いるかということだけだ。
細かく刻んだミルポ150 g をバターでじっく
り色付くまで炒める。そこに、その料理で用い
ているジビエの手羽と腿の皮、ガラを細かく刻
んで加える。
白ワイン 3 dL を注ぎ、
1/3量まで煮詰める。ソー
ス・ドゥミグラス 8 dL を加えて、約 45 分間弱
火で煮込む。漉し器で漉すが、その際に香味野
菜とガラのエキス9)が得られるよう、強く押し
絞ってやること。こうして出来たクリを、この
ソースを合わせる鳥と同種のものでとったフォ
4 dL で薄める。
ジビエが肉断ちの食材と見做されるもので、な
おかつそれを厳格に守って作らなければならな
い場合は、このときフォンの代わりにマッシュ
ルームの茹で汁を用いればいい。
45 分〜1時間、弱火にかけて浮いてくる不純
物を丁寧に取り除いてやる10)さらにソースを
2/3以下の量になるまで煮詰める。これにマッ
シュルームの茹で汁とトリュフエッセンスを適
量加えて丁度いい濃度になるよう調製する。
布で漉し、軽くバターを加えて仕上げる11)
1) トルコ産の白い干しぶどう。
2) ギリシア産の黒い小粒の干しぶどう(モスクワ風ソース参照)
3) ルーアンは野生の colvert コルヴェール、いわゆる青首鴨を家禽化したルーアン鴨の産地として有名。
4) pocher ポシェする。
5) 語源は「ごった煮」を意味する salmigondis とするのが定説のようだが、salmigondis がその意味で用いられるようになったの
19 世紀以降と考えられ、それ以前は ragoût ラグーと同義と見なされていた。ラグーはその語源的意味が「食欲をそそるも
の」であり、17 世紀に、それまでポタージュと呼ばれていた煮込み料理についてラグーの名称をつけることが流行した。ま
た、salmigondis の古い語形のひとつ salmigondin 16 世紀の小説家フランソワ・ラブレー『ガルガンチュアとパンタグリュ
エル』の「第四の書」において用いられているが、日本語の「ごった煮」のニュアンスとはかなり違う意味で、美味な料理の
ひとつとして挙げられている。いずれにしても、salmigondin, salmigondis というラグーの別称が、ある時期から鳥類を材料に
したものに限定されるようになったことは確かで、カレームの19 世紀フランス料理』では salmis の語で、野鳥などのラグー
を呼んでいる。例えば「ベカスのサルミ」「ペルドローのサルミ」など。
6) coulis < couler クレ「流れる」から派生した語だが、料理用語としては、やや水分の多いピュレと理解するといい。日本では
「クーリ」と呼ぶことも多い。ここでは二つの解釈が可能で、ひとつはポタージュ・クリに近いという意味。もうひとつは「昔
ながらのソース」の意。後者の場合、エスコフィエが「古典料理」と呼ぶ 1718 世紀においてソースのことをクリと呼んでい
たのを踏まえていると考えられる。
7) 小斉のこと。カトリックの習慣として(厳密な教義ではない)四旬節(復活祭までの 46 日間)や毎週金曜などに行なわれる、
肉食を断つ行為のこと。
8) ある種の水鳥はイルカと同様に魚と同等のものと見做され、小斉の場合にも食材として認められていた。具体的にはハシヒロ
鴨、オナガ鴨、サルセル鴨など。もっとも、水鳥を肉断ちの際の食材として扱うというのは一種の詭弁ともいえなくないわけ
で、このソースを作る際に魚料理用ソース・エスパニョルをベースとしたソース・ドゥミグラスを使うとは考え難く、本文に
あるようにフォンの代用としてマッシュルームの茹で汁を用いるという指示を守るだけで、厳密に小斉の料理として成立する
レシピと言えるかは疑問の残るところだ。
9) 原文 quintessence(カンテソンス)本来の意味は錬金術でいう「第五元素16 世紀の作家フランソワラブレーは存命当時、
自著を筆名「カンテサンス抽出をなし遂げたアルコフリバス師」で出版していた時期がある。もっとも、このカンテサンスと
いう語自体は中世以来、料理において「エキス」「美味しさの本質」程度の意味でよく用いられた。
10) dépouiller デプイエ。現代では écumer エキュメの語を用いる現場が多い。
11) 原文は légèrement beurrer でありそのまま訳したが、現代の調理現場では monter au beurre バターでモンテする、という表現
がよく使われる。
24 I.  ソース  Sauces
【原注】仕上げの際に、ソース 1 L あたりバター
50 g を加えるが、これは任意。
ソース・トルチュ1)
Sauce Tortue
21/2L仔牛のフォンを鍋で沸かし、セージ 3
gマジョラム 1 gローズマリー 1 gバジル 2
g、タイム 1 gローリエの葉 1 gパセリの
1つまみ、マッシュルームの切りくず 25 g を投
入する。蓋をして 25 分間煎じる。こうして煎
じた液体を漉す 2分前に大粒のこしょう 4個を
加える。
布で漉しス・ド7 dL
3 dL を合わせたものに、上記で煎じ
た液体を、風味が際立つ程度に適量加える。3/4
量まで煮詰め、布で漉す。仕上げにマデラ酒 1
dL とトリュフエッセンス少々を加え、さらに
カイエンヌで風味を引き締める。
【原注】このソースはある程度まとまった量で
作る必要がある。カイエンヌを使う指示がある
からだ。それでも、カイエンヌはとても気をつ
けて量を加減する必要がある2)
ソース・ヴネゾン3)
Sauce Venaison
完全に仕上げた「ジビエ用ソース・ポワヴラー
3/4Lに、グロゼイユのジュレ大さじ 3杯強
を生クリーム 1 dL で溶いてから加える。
グロゼイユのジュレと生クリームを加えるの
は、鍋を火から外して、提供直前にすること。
……大型ジビエ料理用。
赤ワインソース
Sauce au Vin rouge
「赤ス」合、
ブールマニエでとろみを付けるブルゴーニュ風
の仕立てか、魚を煮るのに用いた赤ワインを使
うことが特徴である「ソース・マトロット」の
いずれかから派生したものなのは言うまでもな
い。もっとも、後者の場合はワインの風味は失
われてしまっていてソースの水気と味付けの意
味しか持っていないと言える。
両者どちらもまさしく「赤ワインソース」だが、
ブルゴーニュ風ソースソース・マトロット
それぞれ作り方も用途も違うから別々の名称
として、この「茶色い派生ソース」の節で説明
した。
筆者としては、本当の「赤ワインソース」は以
下のように作るものと考えている。
ごく細かく刻んだ標準的なミルポワ 125 g
ターで炒める。良質の赤ワイン 1/2Lぐ。
半量になるまで煮詰める。つぶしたにんに1
片、ソース・エスパニョ71/2dL 加え、12
15 分、火にかけて浮いてくる不純物を丁寧に
取り除く4)
布で漉し、バター 100 g とアンチョビエッセン
ス小さじ 1杯、カイエンヌ 1つまみを加えて仕
上げる。
……魚料理用ソース。
ソース・ザンガラ5)
Sauce Zingara A
このソースは古典料理のガルニチュール・ザン
ガラとはまったく関係がない。むしろイギリス
料理に由来し、本書でもイギリス風ソースの節
において似たようなものをいくつか採り上げて
いる。
ヴィネガー 21/2dL にエシャロットのみじん切
り大さじ 1杯を加えて半量になるまで煮詰め
る。茶色いジュ 7 dL を注ぎ、バターで揚げたパ
ンの身 160 g を加える。弱火で 56分間煮る。
パセリのみじん切り大さじ 1杯とレモン 1/2
分の搾り汁を加えて仕上げる。
ソース・ザンガラ
Sauce Zingara B
白ワ3 dL とマッシュルームの茹で汁 3 dL
を合わせて 1/3量になるまで煮詰める。
ス・ド4 dL トマトソース 2
1/2dL白いフォン 1 dL を注ぐ。浮いてくる不
純物的になが56
ける。
仕上げに、カイエンヌ 1つまみで風味を引き締
め、太さ 12 mm の千切りにした6)ハム(脂
のないところ)と赤く漬けた舌肉 70 g
マッシュルーム 50 g、トリュフ 30 g を加える。
……仔牛料理、鶏料理用。
1) tortue(トルチュ)は海亀のこと。古くは海亀料理用のソースだったが、19 世紀以降は仔牛の頭肉料理に合わせるのが一般的に
なった。なお、tortu(e) という形容詞があり「曲がりくねった、(性格が)ひねくれた」という同音異義語があるが、このソー
スの由来とは無関係。
2) フランス料理において(というよりも伝統的かつ一般的なフランス人にとって)唐辛子の辛さは嫌われる傾向が非常に強い。
3) Venaison(ヴネゾン)とはノロ鹿 chevreuil や猪 sanglier などの大型ジビエのこと。なおニホンジカやエゾジカは cerf(セー
ル)に分類され、フランス料理の食材としてはあまり高く評価されない傾向がある。
4) dépouiller デプイエ ≒ écumer エキュメ。
5) もとの語形は zingaro ザンガロ、またはヂンガロ。ジプシー、ボヘミアンの意。料理ではパプリカ粉末やカイエンヌを用いた
ものに命名されることが多い。
6) julienne(ジュリエーヌ)。日本語では「ジュリエンヌ」と言うことが多いが、「ジュリヤン」のように言う調理現場もある。
ホワイト系の派生ソース 25
ホワイト系の派生ソース
      
ソース・アルビュフェラ1)
Sauce Albuféra
ソース・シュプレーム 1 L あたりに、溶かした
ブロンド色のグラスドヴィアンド 2 dL と、
準的な分量比率で作っ赤ピーマンバター 50 g
を加える。
…鶏など家禽のポシェ2) 3)
ソースとして添える。
ソース・アメリケーヌ4)
Sauce Américaine
このソースはオマール・アメリケーヌという料
理そのものと言っていい「魚料理」の章、甲殻
類、オマール・アメリケーヌ参照)
このソースは通常、オマール5)の身をガルニ
チュールとした魚料理に添えられる。オマール
の身をやや斜めになるよう厚さ 1 cm 程度
切りにし6)、魚料理のガルニチュールとして供
するわけだ。
アンチョビソース
Sauce Anchois
ノルマンディー風ソース 8 dL を、バターを加え
る前階まる。アョビ125 g
を混ぜ込む。アンチョビのフィレ 50 g を洗い、
よく水気を絞ってから小さなさいの目に切った
のを加えて仕上げる。
……魚料理用。
1) ナポレオン軍の元帥、ルイ・ガブリエル・スーシェ Louis-Gabriel Suchet, duc d’Albufera (17701826)のこと。スペイン戦役
の際にそれまでの軍功を称えられ、ナポレオンが 1812 年にアルビュフェラ公爵位を新設して授けた。帝政期の英雄のひとり
であり、アルビュフェラよびスーシェの名を冠した理がいくつかある。1814 に帝政が壊した後も軍務、政務に携わ
り、最終的にフランス貴族院議員の地位を得た。アルビュフェラ公爵位については、1815 724 日の勅令においてに正式
に抹消されている。このソースの特徴は赤ピーマン(パプリカ)を加熱してなめらかにすり潰し、バターに練り込んだものを
使う点にあるが、どのような経緯でこのソースに赤ピーマンを用いるようになったのかは不明。ただし、このソースを合わせ
「肥鶏 アルビュフェラ」は詰め物(ファルス)に米を用いるが、アルビュフェラは湖の周辺の湿地帯で米の生産がおこな
われているという点では一応の関連性が認められよう。なお、アルビュフェラはバレンシアの湖とそこに形成された潟であり、
現在はバレンシア州のアルブフェーラ自然公園となっている。
2) ポシェは通常、沸騰させない程度の温度で茹でること、だが、ここで想定しているのは丸鶏をポシェしたもの。つまりは「仕
立て」であり、前の注で触れた「肥鶏 アルビュフェラ」がこれに相当する。「仕立て」としての鶏のポシェは通常、中抜きし
た部分に詰め物(ファルス)をして手羽を脚を畳むようにしてまとめて糸で縫いbrider ブリデ)、さらに豚背脂のシートで包
んでちょうどいい大きさの鍋に入れて、あらかじめ用意しておいた白いフォン)が鶏にかぶる程度まで注ぐ。鍋を火にかけて
いったん沸騰したら、火を弱めるかオーブンに入れて、蓋をしてポシェの温度すなわち微沸騰を保つようにして加熱する。詳
しくは7章肉料理「ポシェ」の項参照。
3) ポシェと同様に丸鶏をブレゼという「仕立て」に調理したものを想定しているので注意。肉料理の「仕立て」としてのブレゼ
については7章肉料理「ブレゼ」の白身肉のブレゼ参照。
4) オマール・アメリケーヌという料理の由来は諸説あるが、19 世紀フランスの料理人ピエール・フレス Pierre Fraysse がアメリ
カで働いた後にパリで 1853 年に開いたレストラン「シェ・ピーターズ」でこの料理名で提供したというのが定説。ただし
1853 年以前にレストラン「ボヌフォワ」に「ラングドック産オマール ソース・アメリケーヌ添え」というメニューあり、フ
レスはその料理に改変を加えたか、名前だけをシンプルに「アメリケーヌ」とした程度という説もある。かつては、オマール
の主産地のひとつブルターニュ地方を意味する古い形容詞 armoricain(e) アルモリカン、アルモリケーヌの音が変化した料理
名だと主張されることもあったが、19 世紀には南仏産が中心であったトマトを用いる点で矛盾が生じてしまう。いずれにして
も、この料理名がフレスの店シェ・ピーターズを基点として広く知られるようになったことは事実。1867 年のグフェ『料理の
本』にはソース・エスパニョルをベースに白ワインとトマトで作るオマール・アメリケーヌのレシピが掲載されているので
比較的短期間で広まった料理なのは確か。また、オマールではないが、その 20 年程前に遡ってカレーム『19 世紀フランス料
理』には、「海亀のポタージュ アメリカ風」Potage de tortue à l’américaine よびその派生型「海亀のソース アメリカ風」
のレピが載さている。レシに先って、ーム「アメカで海亀ポタジュ本書イギス風亀の
タージュと同様に、つまりロンドン風に調理するという。ところが、ボストンとニューヨークで暮したことのある人々から
アメリカ人は海亀のポタージュにうなぎのフィレを加えることを伝え聞いた。当然ながらイギリス風の海亀のポタージュとは
異なる味わいのものとなる (t.1, pp.289-290」と述べている。ここではソースのほうの概要を見ておこう。皮を剥いた小さめの
うなぎを筒切りにする。これをラグー鍋に入れてシャンパーニュを注ぐ。洗ったアンチョビのフィレとにんんく、玉ねぎ、薄
切りにしたマッシュルーム、タイム、バジル、ローリエの葉、ローズマリー、マジョラム、サリエット、メース少々、粗く砕い
たこしょう、カイエンヌ少々を加える。弱火にかけて煮込み、煮詰めていく。これを布で絞り漉す。ここにコンソメとソース
エスパニョルを加え、再度火にかけていい具合になるまで煮詰める。シャンパーニュをグラス 1/2杯加えて布で漉す。提供直
前にバター少々と鶏のグラス、レモン果汁を加える (t.3, pp.81-82)、というもの。
5) homard ロブスターのこと。なお高級料理では 800900 g 程度の大きなものが好んで使用される。
6) escalopper(エスカロペ)。エスカロップ、すなわち厚さ 12 cm 程度の円形に切ることだが、オマールの場合はやや斜めに切
るようにして面積を大きくすることが一般的。ここで使用するオマールは 900 g1 kg 程度のものを想定していることに注意。
1) 夜明けの光、曙光のこと。オーロラの意味もあるため、日本では「オーロラソース」と呼ばれることもあるが、マヨネーズとト
マトケチャップを同量で混ぜ合わせたものもそう呼ばれることが多いので注意。なお、Sauce à l’aurore というほぼ同じ名称の
ものが 1806 年刊ヴィエアール『帝国料理の本』に掲載されているが、これはヴルテにレモン果汁とこしょう、ナツメグを加え
26 I.  ソース  Sauces
ソース・オーロール1)
Sauce Aurore
ヴルテに真っ赤なトマトピュレを加えたもの。
分量は、ヴルテが 3/4に対し、トマトピュレ 1/4
とする。仕上げに、ソー1 L あた100 g
バターを加える。
……卵料理、仔牛、仔羊肉の料理、鶏料理用。
魚料理用ソース・オーロール
Sauce Aurore maigre
に、
ピュレを加える。ソー1 L たりバタ125
gを加えて仕上げる。
……魚料理用
バイエルン風ソース
Sauce Bavaroise
ネガ5 dL とロ
とパセリの枝 4本、大粒のこしょう 78個と、
2)レフォール3)2え、
量になるまで煮詰める。
64)
デーズソースを作る要領で、バター 400 g と大
11/2つ加ら、
く。
漉す。
エクルヴィスバター 100 g と泡立てた生クリー
2、さいの目に切ったエクルヴィ
5)の尾の身を加えて仕上げる。
……魚料理用のこのソースは、ムースのような
仕上がりにすること。
ソース・ベアルネーズ6)
Sauce Béarnaise
白ワ2 dL とエストラゴンヴィネガー 2 dL
に、エシャロットのみじん切り大さじ 4杯、
のままの粗く刻んだエストラゴン 20 gセルフ
イユ 10 g粗挽きこしょう 5 g1つまみを
加えて、1/3量になるまで煮詰める。
煮詰まったら、数分間放置して温度を下げる
ここに卵黄 6個を加え、弱火にかけて、生のバ
ター(あるいはあらかじめ溶かしておいてもい
い)500 g を加えて軽くホイップしながらなめ
らかになるよう混ぜる。
卵黄に徐々に火が通っていくことでソースに
で、
こと。
ら、調
る。カイエンヌごく少量を加えて風味を引き締
める。仕上げに、刻んだエストラゴン大さじ杯
とセルフイユ大さじ 1/2杯を加える。
……牛、羊肉のグリル用。
【原注】このソースを熱々で提供しようとは考
と。
作ったマヨネーズなのだ。ほの温い程度で充分
であり、もし熱くし過ぎてしまうと、ソースが
分離してしまう。
そうなってしまったら、冷水少々を加えて泡立
て器でホイップして元のあるべき状態に戻して
やること。
トマト入りソース・ベアルネーズソース・ショ
ロン7)
Sauce Béarnaise tomatée, dite Sauce Choron
ソースベアルネーズを上記のとおりに作る
が、最後にセルフイユとエストラゴンのみじん
切りは加えない。充分固めに作っておき、ソー
スの 1/4量の、充分に煮詰めたトマトピュレを
加える。ソースの濃度が丁度いい具合になるよ
たものを用意し、別に茹で卵の黄身を用意する。茹で卵の黄身を漉し器に圧し付けるようにして麺状に引き出す提供直前に、
ソースにこの黄身の麺を加える。ここからは決して沸騰させないこと、というもの (p.59)。麺状にした卵黄を朝の光の筋に見
立てたもので、鍋で加えるか、ソース入れにソースを入れた上に載せるなどの方法も考えられるが、いずれにしてもヴィアー
ルの時代(19 世紀初頭)はフランス式サーヴィスつまり大きな食卓に何種もの料理を一度に並べるという方式だったために、
このソースの見た目の美しさをある程度じっくりと食べ手は楽しむことが出来ただろう。その後の文献ではオドもカレームも
この名称のソースには触れておらず、デュボワとベルナールの『古典料理』1867 年)において、Sauce à l’Aurore として、ベ
シャメルソースに煮詰めた仔牛のブロンドとマッシュルームの茹で汁、トマトソースを添加して、スライスしたマッシュルー
ムを加えるというレシピが掲載されている (p.57)。初期のロシア式サービスにおいては、客に料理を最初に見せてまわり、そ
の後に切り分けて供するという方式であったために、おそらくヴィアールの「ソース・アローロール」では一瞬で失なわれて
しまったであろう美しさのポイントが、このようにソース色合いそのものに代えたことで、最後の食べ手の分を取り分けるま
で美しさを維持できるようになった、つまりは初期のロシア式サービスの欠点を補うものとなったと考えられよう。なお、19
世紀はトマトが食材として急激に普及、流行した時代であったこともこのソースの変化と関係があると思われる。
2) 原文 râpé < râpe ラープと呼ばれる器具を用いておろすが、日本のおろし金と目の大きさが違うので注意。多くの場合、マンド
リーヌ mandrine と呼ばれる野菜用スライサーにこの機能が付属している。
3) raifort 西洋わさび、ホースラディッシュ。
4) 卵黄を加える前に一度漉しておいたほうがいいだろう。
5) ざりがにのこと。通常はヨーロッパザリガニ écrevisse à paes rouges エクルヴィスアパットルージュを指す。高級食材として
とても好まれている。現在は代用として écrevisse de Californie エクルヴィスドカリフォルニ(ウチダザリガニ)が用いられる
こともある。日本在来のニホンザリガニや、外来種だが多く生息しているアメリカザリガニは通常、フランス料理には用いら
れない。いずれもジストマ(寄生虫)のリスクがあるため、生食は厳禁。
6) ベアヌは方名で、フラス南西部、現在ピレー・アトラティク県とをすが、のソはそ地方
まったく関係がない。19 世紀パリ郊外のレストラン Pavillon Henri IV(日本語に訳すと「アンリ 4世亭」となろうか)が店名
に掲げているアンリ 4世がベアルヌのポー生まれであることにちなんで命名したソース名というのが定説。
7) 19 世紀後半、パリで有名レストラン「ヴォワザン」の料理長を務めたアレクサンドル・ショロン Alexandre Choron1837
1924。自ら考案し、命名したという。
ホワイト系の派生ソース 27
う注意すること。
……トゥルヌド・ショロン、および他のさまざ
まな料理に添える。
グラスドヴィアンド入りソース・ベアルネーズ
ソース・フォイヨソース・ヴァロワ1)
Sauce Béarnaise à la glace de viande, dite
Foyot, ou Valois
ス・ベを上記の分量
で、固めに作る。溶かしたグラスドヴィアンド
1 dL を少しずつ加えて仕上げる。
……牛、羊肉のグリル用。
ソース・ベルシー2)
Sauce Bercy
細かくみじん切りにしたエシャロット大さじ 2
杯をバターでさっと色付かないよう炒める。白
ワイン 21/2dL 魚のフュか、このソースを
合わせる魚の茹で汁 21/2dL を注ぐ。
2/3ら、3/4L
る。ら、し、
バター 100 g とパセリのみじん切り大さじ 1
を加えて仕上げる。
ソース・オ・ブールソース・バタルド3)
Sauce au Beurre, dite Sauce Bâtarde
小麦粉 45 g と溶かしバター 45 g をよく混ぜ合
わせ粘土状にする。そこに7 g の塩を加えた
熱湯 71/2dL 一気に注ぎ、泡立て器で勢いよ
く混ぜ合わせる。とろみ付け用の卵黄 5個を生
クリーム大さじ 11/2と、
モン汁少々を加える。
布で漉し、鍋を火から外して、良質なバター
300 g を加えて仕上げる。
……アスパラガスや、さまざまな茹でた魚4)
【原注】このソースはとろみを付けた後、湯煎
にかけておき、提供直前にバターを加えるよう
にするといい。
5)
ソース・ボヌフォワ白ワインで作るボルドー風
ソース6)
Sauce Bonnefoy, ou Sauce Bordelaise au vin
blanc
ブラウン系の派生ソースの節で採り上げた、赤
ワインを用いて作るボルドー風ソースとまった
く同じ作り方だが、赤ワインではなく、グラー
る。
ス・エスパニョルではなく標準的なヴルテを使
うこと。
このソースは仕上げに、みじん切りにしたエス
トラゴンを加える。
……魚のグリル、白身肉のグリル用。
ブルターニュ風ソース
Sauce Bretonne
長さ 35 cm 位の、ごく細い千切7)したポ
ワローの白い部分 30 g とセロリの白い部分 30
g、玉ねぎ 30 g、マッシュルーム 30 g をバター
で完全に火が通るまで鍋に蓋をして弱火で蒸し
煮する8)
魚のヴルテ 3/4Lを加え、しばらく弱火にかけ
て浮いてくる不純物を丁寧に取り除く9)。生ク
ーム3杯とバター 50 g て仕
げる。
ソース・カノティエール10)
Sauce Canotière
淡水魚を煮るのに用いた、白ワイン入りクール
ブイヨン1/3量に煮詰める。クールブイヨン
にはしっかり香り付けしてあり塩はごく少量し
か入っていないこと。
1 L あたり 80 g のブールマニエを加えてとろみ
を付ける。軽く煮立たせたら、鍋を火から外し
てバター 150 g とカイエンヌごく少量を加えて
仕上げる。
……淡水魚のクールブイヨン煮用。
1) ソースフォイヨの名称は、19 世紀〜20 世紀初頭にパリにあったレストランおよびそのオーナーシェフの名によるもの。この
ソースを使った「仔牛の背肉・フォイヨ」がスペシャリテだったという。ソース・ヴァロワについては、ヴァロワ王家および
ヴァロワ公爵であったルイ・フィリップ(7月王政期のフランス国王。在位 18301848)にちなんだ名称。前出のフォイヨは
レストランを開く以前、ルイ・フィリップに仕えていた。
2) パリ東部、セーヌ川左岸にある地名。かつては荷揚げ港があり、19 世紀には小さなレストランが多く店を構えていたという。
3) バタルドは「雑種の、中間の」の意。卵黄とバターだけでとろみを付けるソース・オランデーズと似てはいるが小麦粉も使う
ことからこの名が付いたと言われている。なお、パンのバタール bâtard も同じ語だが、細いバゲットと太いドゥーリーヴルの
「中間」の太さとだからというのが通説。
4) 魚料理用ソース・アシェ訳注参照。
5) 本書には、日本でもかつて有名だった、エシャロットのみじん切りを加えたヴィネガーを煮詰めてバターを溶かし込んだ魚料
理用ソース「ソース・ブールブラン」Sauce (au) Beurre blanc は収録されていない。このソース・ブールブランはナント地方や
アンジュー地方で淡水魚アローズやブロシェに合わせる伝統的なソース。1890 年頃にナント地方の女性料理人クレマンス・ル
フーヴルが、ソース・ベアルネーズを作るつもりが誤って卵を加えるのを忘れてしまった結果として出来たものだとも言われ
ている。
6) ソース・ボヌフォワの名称は、19 世紀中頃にあったレストランの名による。このレストランで考案されたソースだという説も
ある。
7) julienne(ジュリエーヌ)
8) étuver エチュヴェ。本来は油脂とごく少量の水分を加えて弱火で蒸し煮することだが、野菜については、バターだけを使う場
合も多い。ほぼ同様の加熱方法に étouer(エトゥフェ)がある。後者の原義は「窒息させる」
9) dépouiller デプイエ ≒ écumer エキュメ。
10) 小舟の漕ぎ手、の意。
28 I.  ソース  Sauces
【原注】バターでグラセした小玉ねぎと小ぶり
のマッシュルームを加えると白いソース
トロット」の代用となる。
ケイパー入りソース
Sauce aux Câpres
上記のース・オ・ブールに、ソース 1 L
り大さじ 4杯のケイパーを提供直前に加える。
……いろいろな種類の魚を煮た料理に用いる。
ソース・カルディナル1)
Sauce Cardinal
ベシャメルソース 3/4Lに、1魚のフュメ
トリュフエッセンスを同量ずつ合わせて 3/4
まで煮詰めたものを 11/2dL 加える。2)生ク
リーム 11/2dL を加える。
し、
ターを加え、カイエンヌごく少量で風味を引き
締める。
……魚料理用。
マッシュルーム入りソース
Sauce aux Champignons
マッシュルームを茹でた汁 3 dL 1/3量まで煮
める。ソース・アルマンド 3/4Lを加え、数
分間沸騰させる。あらかじめ
らせん
螺旋状に刻みを入
れて整形2)してから茹でておいた真っ白で小さ
なマッシュルーム 100 g を加えて仕上げる。
……鶏料理用。魚料理に添えることもある。魚
料理に合わせる場合は、ソース・アルマンドで
はなく魚料理用ヴルテを用いること。
ソース・シャンティイ3)
Sauce Chantilly
まれにこれを「ソース・シャンティイ」と呼ば
れることもあるが、これは後述の「ソース・ム
スリーヌ」に他ならない4)
ソース・シャトーブリヤン5)
Sauce Chateaubriand
(仕上がり 5 dL 分)
白ワイン 4 dL に、みじん切りにしたエシャロッ
4個分とタイム少々、ローリエの葉少々、マッ
シュルームの切りくず 40 g を加え、1/3にな
るまで煮詰める。
仔牛のジュ6)4 dL を加え、半量になるまで煮詰
める。布で漉し、鍋を火から外して、メートル
ドテルバター 250 g と細かく刻んだエストラゴ
ン小さじ 1/2杯を加えて仕上げる。
……牛、羊の赤身肉のグリル用。
白いソース・ショフロワ(標準)
Sauce Chaud-froid blanche ordinaire
(仕上が1 L )……標準的なヴルテ 3/4L
67 dL7)3
dL
る。
け、
リーム 1/3量を少しずつ加えていく。
所定の分量にするには2/3量くらいまで煮詰
めることになる。
味見をして、固さを確認する。これを布で漉
8)。生クリームの残りを少しずつ加え、ゆっ
くり混ぜながら、ショフロワに仕立てる食材を
覆うのにいい固さになるまで冷ましてやる。
ブロンドのソース・ショフロワ
Sauce Chaud-froid blonde
上記と同様に作るが、ヴルテではなくソース・
アルマンドを用いる。また、生クリームの量は
半分に減らすこと。
ソース・ショフロワ・オーロール9)
Sauce Chaud-froid Aurore
1) カトリックの
すうききよう
枢機卿(カルディナル)の衣が伝統的に赤いものであること、およびオマールが「海の枢機卿」と呼ばれること
に由来。
2) tourner トゥルネ。原義は「回す」包丁を動かさずに材料の方を回すようにして切る、刻み目を入れることがこの用語の由来。
マッシュルームの場合はその際に大量の切りくず(具体的には重量で 1520 %)が発生するので、それをソースなどの風味付
けに利用する。
3) 料理および製菓では生クリームをホイップしたクレーム・シャンティイが有名だが、元来はパリ北方に位置する町の名。ここ
のシャンティイ城で 17 世紀に、歴史上主要なメートルドテルのひとりヴァテルが自害した事件は有名で小説化、映画化もさ
れた。
4) むしろ、初版から掲載されている冷製ソースのソース・シャンティイと混同しないよう留意すべきだろう。
5) 料理において通常、シャトーブリヤンは牛フィレの中心部分を 3 cm 程度の厚さに切ったものを指す。この名称の由来には
主に 2説あり、ひとつはフランスロマン主義文学の父と言われる小説家フランソワ・ルネ・シャトーブリヤン François René
Chateaubriand17681848)の名を冠したというもの。ちなみにフランスロマン主義文学の母と呼ばれているのはスタール
夫人 Anne Louise Germaine de Staël17661817。料理におけるシャトーブリヤンという名の由来のもうひとつの説は、ブ
ルターニュ地方で畜産物の集積地であったシャトーブリヤン Châteaubriant という地名に由来するというもの。なお、本書の
初版および第四版では Chateaubriand の綴り、第二版は Châteaubriant であり、第三版は Châteaubriandという奇妙な綴りと
なっている。
6) 本書では「仔牛の茶色いジュ」のレシピは掲載されているが、仔牛の「白い」ジュについての言及はない。ここでは通常の仔
牛の茶色いジュを用いればいい。また、ソース・コルベールの項(第二版で加えられた)で、ブール・コルベールとこのソー
スを比較するにあたり、このソースを「軽く仕上げたグラスドヴィアンドにバターとパセリのみじん切りを加えたもの」と述
べているソース・コルベール本文参照)。このため、なぜこのソース・シャトーブリヤンが「ブラウン系の派生ソース」の節
ではなく「ホワイト系の派生ソース」に分類されているのか疑問が残るところ。
7) フランスの生クリームについてはソース・シュプレーム訳注参照。
8) 粘度の高いソースなどを布で漉す方法については、ヴルテ訳注参照。
9) 夜明け、曙光の意。
ホワイト系の派生ソース 29
標準的な白いソース・ショフロワを上記のとお
り作る。そこに、真っ赤なトマトピュレを布で
漉したもの 11/2dL とパプリカ粉末 0.25 g を少
量のコンソメで煎じた1)ものを加える。
……鶏のショフロワ用。
【原注】あまり鮮かな色にしたくない場合は、
プリカを煎じた汁は数滴だけ加えるにとどめる
といい。
ソース・ショフロワ・ヴェールプレ2)
Sauce Chaud-froid au Vert-pré
鍋に白ワイン 2 dL を沸かし、セルフイユとエ
ストラゴン、刻んだシブレット、刻んだパセリ
の葉を各 1つまみずつ投入する。蓋をして火か
ら外し、10 分間煎じてから布で漉す。
最初に示したとおりの分量で標準的なソース・
ショフロワを作り、煮詰めながら、上記の香草
を煎じた液体を少しずつ混ぜ込む。この段階で
1 L になるまで煮詰めておくこと。
ほうれんそうから採った緑の色素をソースに加
え、ほんのり薄い緑色にする。
この色素を加える際にはよく注意して、上で示
したとおりの色合いになるよう少しずつ投入す
ること。
このソースは各種の鶏3)のショフロワ、とりわ
け「ショフロワ・プランタニエ」に用いる。
魚料理用ソース・ショフロワ
Sauce Chaud-froid maigre
作り方の手順と分量はス・シ
が、
する。1)通常のヴルテではなく魚料理用ヴル
を用いる。2)鶏のジュレではなく白い魚の
ジュレを用いること。
【原注】一般的に、このソースは魚のフィレや
プ、
の代わりとして用いることをお勧めす
る。コーティング用マヨネーズにはいろいろ不
都合な点があり、そのうちの最大のものは、ゼ
ラチンが溶けるにつれて油が浸み出してきて
だ。
用ソース・ショフロワを使う場合には出てこな
い。このソースは風味も明確ですっきりしてい
るからコーティング用マヨネーズよりも好まし
いだろう。
ソース・シヴリ4)
Sauce Chivry
白ワイン 11/2dL に以下を各 1つまみずつ投入
する5)……セルフイユ、セリ、エストラゴン、
シブレット、時季が合えばサラダバーネット6)
の若い葉。蓋をして鍋を火から外し、10 分間煎
じる7)。布で絞るようにして漉す。
こうしてハーブ類を煎じた液体を、あらかじめ
沸かしておいたヴルテ 3/4Lに加える。火から
外し、ブール・シヴリ 100 g を加えて仕上げる
合わせバターの節参照)
……ポシェ8)あるいは茹でた鶏の料理用。
【原注】サラダバーネットは生育するにつれて
苦味が強くなるの、必ず若いものを使うこと。
ソース・ショロン
Sauce Choron
トマト入りソース・ベアルネーズ参照。
ソース・クレーム
Sauce à la Crème
ベシャメルソース 1 L 2 dL
えて、ヘラで混ぜながら強火で、全体量の 3/4
になるまで煮詰める。
布で9)。フレッシュなクレーム・ドゥーブ
10)21/2dL とレモン果汁半個分を少しずつ加
えて仕上げる。
……茹でた魚、野菜料理、鶏、卵料理用。
ソース・クルヴェット11)
Sauce aux Crevettes
魚料理用ヴルテまたはベシャメルソース 1 L
1) infuser アンフュゼ。煮出す、煎じる、の意。
2) 緑の野原、草原、の意。
3) 日本語では鶏と一言で済ませるが、フランス語では poussin プサン(ひよこ、ひな鶏)poulee プレット(若い雌鶏)poulet
プレ(若鶏)poule プール(雌鶏)poulet de grain プレドグラン(5070 日の若鶏)poulet reine プレレーヌ(若鶏と肥鶏
の中間のサイズでソテーやローストにする)poulet quatre quarts プレカトルカール(45 日程で食用にする)poularde プラ
ルド(肥鶏、1.8 kg 以上のものが多く、AOC を取得している産地もある)chapon シャポン(去勢鶏、最大で 6kg 程になると
いうが、肉質は雌鶏に近く、高級品とされている)coq コック(雄鶏)などに細かく分類されている。
4) 19 世紀フランスの作家フレデリック・スリエ Frédéric Soulié18001847)の劇『ディアーヌ・ド・シヴリDiane de Chivry
(1838 )あるいは 1897 年に新聞「フィガロ」に掲載されたエルネストカペンデュの小説『ビビタパン』の登場人物名 Chivry
にちなんだか、あるいはまったく別の人物の名を冠したものかは不明。
5) 明記されていないが、この時点で白ワインは沸かしておく。
6) pumprenelle パンプルネル、和名ワレモコウ。
7) infuser アンフュゼ。
8) pocher 原則的には、沸騰しない程度の温度で加熱調理すること。この場合は、下処理した鶏一羽まるごとをぎりぎり入るくら
いの大きさの鍋に入れて水あるいはクールブイヨンを用いてゆっくり火を通す調理を意味している(温度管理が難しい場合は
オーブンを用いることもある)
9) 粘度や濃度の高いソースを漉す方法についてはヴルテ訳注参照。
10) 乳酸醗酵させた濃度の高い生クリーム。詳しくはソース・シュプレーム訳注参照。
11) 小海老のこと。フランスでよく料理に用いられるのは生の状態で甲殻が灰色がかった小さめの crevees grises(クルヴェット
グリーズ)と、やや大きめでピンク色の crevees roses(クルヴェット・ローズ)。美味しい。ちなみに日本でよく食べられて
いるブラックタイガーはフランス語にすると crevee géante tigrée と言う。
30 I.  ソース  Sauces
、生クリーム 11/2dL 魚のフュメ 11/2dL
を加える。
火にかけて 9 dL になるまで煮詰める。鍋を火
から外し、ブール・ルージュ 25 g(ソース全体
に淡いピンクの色合いを付けるのが目的)を足
したクルヴェットバター 100 g を加える。殻を
剥いたクルヴェットの尾の身大さじ 3杯を加
え、カイエンヌ 1つまみで風味を引き締めて仕
上げる。
……魚料理およびある種の卵料理用。
カレーソース
Sauce Currie
以下の材料をバターで軽く色付くまで炒め
……250 g100 g、パセリの
1)30 g、これらはすべてやや厚めにスライス
る。1枝とローリエの葉少々、メー
ス少々を加える。小麦粉 50 g とカレー粉2)小さ
1杯弱を振り入れる。小麦粉が色付かない
程度に炒めて火を通したら、白いコンソメ 3/4
Lぐ。ら、45
る。軽く押し絞るように布で漉す。ソースを温
めて、浮いてきた油脂は取り除き3)、湯煎にか
けておく。
……魚料理、甲殻類、鶏、さまざまな卵料理に
合わせる。
【原注】ココナツミルクをソースに加えること
もある。その場合、白いコンソメの 1/4量をコ
コナツミルクに代えること。
インド風カレーソース
Sauce Currie à l’Indienne
みじん切り4)にした玉ねぎ 1個と、パセリ、タイ
ム、ローリエ、メース、シナモン各少々のブー
ケガルニを、バターとともに弱火にかけて色付
かないよう蒸し煮する。
カレー粉 3 g を振り入れ、ココナツミルク 1/2L
を注ぐ。ヴルテ 1/2Lを加える(ソースを肉料
理に合わせるか、魚料理に合わせるかで、ヴル
テも標準的なものを使うか、魚料理用を使うか
)15 る。し、
リー1 dL 果汁
上げる。
【原注】ここで示した量のココナツミルクは、
のココヤシの実 700 g をおろして41/2dL の温
めた牛乳で溶いて作る。それを布で強く絞って
漉してから使うこと。
ココナツミルクがない場合には、同量のアーモ
ンドミルクを用いてもいい。
インドの料理人によるこのソースの作り方はさ
まざまで、基本だけが同じというものだ。
だが、本来のレシピがあったところで、使い物
にはならないだろう。インドのカレーは我が国
の大多数にとっては我慢ならぬものだろうか
ら。ここで記した作り方は、ヨーロッパ人の味
覚を勘案したものなので、本来のものよりいい
筈だ。
ソース・ディプロマット5)
Sauce Diplomate
すで
既に仕上げでおいたノルマンディ風ソース 1 L
に、オマールバター 75 g を加える。
さいの目に切ったオマールの尾の身大さじ 2
と同様にさいの目に切ったトリュフ大さじ 1
を加えて仕上げる。
……大きな魚一尾まるごとの6)料理用。
スコットランド風ソース
Sauce Ecossaise
上記の分量どおりに作ったソース・クレーム 9
dL に以加える。12 mm の細さに千
切りにしたにんじん、セロリ、さやいんげん
をバターを加えて鍋に蓋をして弱火で蒸し煮
7)白いコンソメに完全に浸したものを 1 dL
……卵料理、鶏料理に添える。
1) パセリには根パセリ persil tubéreux(ペルスィチュベルー)といって根が肥大する品種系統もある。平葉で、葉の香りはフラ
ンスで一般的なモスカールドタイプ (葉の縮れるタイプ)とやや異なる。イタリアンパセリのように用いることが可能。
2) カレーは植民地インドの料理としてイギリスに伝わり、18 世紀には C&B 社によって混合スパイスであるカレー粉が開発され
た。フランスはあまりインドやその他のカレーの食文化と接することもなかったために、こんにちでも「珍しい料理」の範疇
にとどまっている。とはいえ、19 世紀にインドからアンティル諸島のうちの英領地域に連れて来られたインド人たちがカレー
を伝え、それが広まってフランス領アンティーユにおいてコロンボ colombo というカレーのバリエーションが成立した。コロ
ンボこんちのランでも(インドカレは別ものして)較的く知れたのとってる(少くと
curry, currie という語よりは一般的認知度が高いと言えるだろう)
3) dégraisser(デグレセ)
4) 原文 ciseler シズレ。鋭利な刃物でみじん切りにすること、スライスすること。原義は「ハサミで切る」。なお、日本語でみじ
ん切りに相当する用語には hacher アシェもある(hache 斧から派生した語)。後者は野菜の他、肉類を細かく刻む際にも用い
られる。ミートチョッパーをフランス語では hachoir アショワールと呼ぶ。
5) 外交官風、の意。繊細で豪華な仕立ての料理に付けられる名称。
6) relevé(ルルヴェ)17 世紀19 世紀前半ににスタイルとして完成したフランス式サービスでは、豪華な装飾を施した飾り台
socle ソークル)に載せられ、皿の周囲を飾るようにガルニチュールが配され(bordures ボルデュール)、主役である大きな
塊肉や魚まるごと 1尾の料理にはしばしば飾り串(hâtelet アトレ)が刺してある、きわめて壮麗な大皿料理が置かれた。なお
『料理の手引き』ではこうした仕立てについては時代に
そぐ
似わないものとして、ごく簡潔にしか説明されていないが、初版、第二
版に付属している献立表、および第三版以降独立して出版された『メニューの本』にはルルヴェの語はしばしば見られる。
7) étuver エチュヴェ。
1) ヨモギ科のハーブ。詳しくは茶色い派生ソースのソース・シャスール訳注参照。
ホワイト系の派生ソース 31
ソース・エストラゴン1)
Sauce Estragon
エストラゴンの枝 30 g を粗く刻み2)、強火で
茹でする3)。水気をしっかりときり、エストラ
ゴンをスプーンですり潰し、あらかじめ用意し
ておいたヴルテを大さじ 4杯加える。これを布
で漉す。こうして作ったエストラゴンのピュレ
鶏のヴルテまたは魚料理用ヴルテ 1 L に混ぜ
込む。どちらのヴルテを使うから、合わせる料
理によって決めること。味を調え、みじん切り
にしたエストラゴン大さじ 1/2杯を加えて仕上
げる。
……卵料理、鶏肉料理、魚料理に合わせる。
香草ソース
Sauce aux Fines Herbes
(仕上がり 5 dL 分)
あらかじめ 2種のうちどちらかの方法白ワイ
ンソース参照)で作っておいた白ワインソース
1/2Lに、エシャロットバター 40 g と、パセリ、
セルフイユ、エストラゴンのみじん切りを大さ
11/2杯加える。
……魚料理用。
ソース・フォイヨ
Sauce Foyot
グラスドヴィアンド入りソース・ベアルネー
参照。
ソース・グロゼイユ4)
Sauce Groseilles
緑色の濃いグーズベリー 500 g を銅の片手鍋で
下茹でする。
5分間煮立てたら、水気をきって、粉砂糖大さ
3杯と白ワイン大さじ 23杯を加えて、完
全に火をとおす。布で漉す。
こうして出来たピュレに、ソース・オ・ブール
5 dL を加え、よく混ぜる。
……このソースはグリルあるいはイギリス風5)
に茹でた鯖によく合う。とはいえ、他の魚料理
にも合わせてもいい。
【原注】このソースは緑色の房なりのグロゼイ
6)でも作ることが可能。
オランデーズソース7)
Sauce Hollandaise
大さじ 4杯の水とヴィネガー大さじ 2杯に、
挽きこしょう 1つまみと肌理の細かい塩 1つま
みを加えて、
1/3量まで煮詰める。この鍋を熱源
のそばか、湯煎にかける。
55る。
ま、あるいは溶かしたバター 500 g を加えなが
る。
途中で、水を大さじ 34杯、少量ずつ足して
やる。水を足すのは、軽やかな仕上がりにする
ため。
レモンの搾り汁少々と必要なら塩を足して味を
調え、布で漉す。
湯煎にかけておくが、ソースが分離しないよう
に、温度は微温くしておく。
……魚料理、野菜料理用。
【原注】ヴィネガーを煮詰めて使うのは、いつ
も最高品質のものが使えるとはかぎらないか
らで、水は 1/3量まで減らしたほうがいい。た
だし、煮詰める作業を完全に省いてしまわない
こと。
ソース・オマール
Sauce Homard
魚料理用ヴルテ 3/4Lに、生クリーム 11/2dL
オマールバター 80 g赤いバター 40 g を加え
て仕上げる。
……魚料理用。
【原注】このソースを魚 1尾まるごとの料理に
添える場合には、さいの目に切ったオマールの
2) concasser コンカセ。
3) blanchir ブランシール。
4) 日本語で「すぐりの実」のことだが、こんにちでは「黒すぐり」の方が一般的かも知れない。黒すぐりはフランス語では
cassis カシスと呼ばれる。一般的なグロゼイユにはフサスグリと呼ばれる groseille rouge グロゼイユルージュ(赤すぐり)
groseille blanche グロゼイユブランシュ(白すぐり)2種があり、どちらもブドウのように房なりする。上記とは別に、
のソースで用いられる groseille à maquereau グロゼイヤマクローmaquereau は鯖の意。日本では英語経由のグーズベリーま
たはグースベリーの名称でも呼ばれることが多い。単に西洋すぐりとも呼ぶ)という比較的大粒で薄く縞模様の入る種類もあ
る。これは通常は緑色だが、まれに紫色になる変種もあるという。いずれもフランスでは料理や菓子作りによく用いられる。
5) à l’anglaise(アラングレーズ)。通常は塩適量を加えた湯でボイルすることを指す。
6) 一般的なフサスグリであれば白系統の「未熟果」を用いるということと解釈される。
7) ニューヨーク発祥の朝食メニューとして知られるエッグ・ベネディクト Egg Benedi に必ず用いられることで有名なうえ、一
般的には「バターで作るマヨネーズ」のイメージが強いかも知れない。実際のところは、ラ・ヴァレーヌ『フランス料理の本』
1651 年)におい「アスパラスの白いース添え」Asperges à la sauce blanche うレシピにおて、このオンデ
ズソースの原型ともいうべきものが示されている。アスパラガスは固めに塩茹でする。「新鮮なバター、卵黄、塩、ナツメグ、
ヴィネガー少々をよくかき混ぜる。ソースが滑らかになったら、アスパラガスに添えて供する (p.238)。簡潔な記述だが、こ
れがオランデーズソースの原型であることは間違いないだろう。おそらくはラ・ヴァレーヌ以前から存在していた可能性も否
定できない。なお植物油を用いたマヨネーズが文献上で確認されるのが 18 世紀以降で、19 世紀初頭から爆発的に流行し、広
まったもの。また、マヨネーズについては、現代ヨーロッパにおいても卵黄ではなく全卵を用いて作るほうが多数を占めてい
る点が異なることに注意。なお、オランデーズとは「オランダ風」の意だが、なぜこの名称となったのかについては不明な点
が多い。また、2007 年版の『ラルース・ガストロノミック』では、オランデーズソースを作る際には温度に注意することと、
よくメッキされた銅鍋かステンレス製の鍋を用いる必要があり、アルミ製の鍋だと緑色に変色する可能性があることに注意を
促している (p.455)
32 I.  ソース  Sauces
尾の身を大さじ 3杯加える。
ハンガリー風ソース1)
Sauce Hongroise
大きめの玉ねぎ 1個のみじん切りをバターで色
付かないよう強火で炒める。1つまみとパプ
リカ粉末 1 g で味付けする。
このソースを添える料理に合わせて標準的なヴ
ルテあるい魚料理用ヴルテ 1 L を加え、数分
間軽く煮立てる。
布で漉し、バター 100 g を加えて仕上げる。
このソースは淡いピンク色に仕上げるべきであ
り、その色を出しているのがパプリカ粉末だけ
によるものだということに注意。
……仔羊や仔牛のノワゼット2)にとりわけよく
合う。卵料理、鶏料理、魚料理にも。
牡蠣入りソース
Sauce aux Huîtres
後述のノルマンディ風ソースに、ポシェ3)
周囲をきれいにした牡蠣の身を加えたもの。
インド風ソース
Sauce Indienne
インド風カレーソース参照。
ソース・イヴォワール4)
Sauce Ivoire
ソース・シュプレーム 1 L に、ブロンド色の
ラスドヴィアンド大さじ 3杯を加え、象牙のよ
うなくすんだ色合いにする。
……
5)鶏に添える。
ソース・ジョワンヴィル6)
Sauce Joinville
ノルマンディ風ソース 1 L を、仕上げる直前の
段階まで作る7)エクルヴィスバター 60 g とク
ルヴェットバター 60 g を加えて仕上げる。
このソースを添える魚料理にガルニチュールが
既にある場合は、これ以上は何も加えない。
ガルニチュールを伴なわない大きな茹でた魚8)
に添える場合には、細さ 12 mm の千切りに
した真黒なトリュフを大さじ 2杯加えること。
【原注】同様のソースはいろいろあるが、最後
の仕上げにエクルヴィスバターとクルヴェット
バターを組み合わせて加える点がソース・ジョ
ワンビルが他のものと違うポイント。
ソース・ラギピエール9)
Sauce Laguipière
上述のとおりに作ったソース・オ・ブ1 L
に、レモン 1個の搾り汁と魚のグラスまたはそ
れと同等に煮詰めた魚のフュメ大さじ 4杯を加
える。
このソースは茹でた魚に添える。
【原注】カレームが考案したこのソースのレシ
ピに、本書で加えた変更点はただ 1箇所み、
鶏のグラスではなく魚のグラスに代えたことだ
けだ。さらに言うと、このソースはカレームに
1) 原書でも用いられている語 paprika パプリカはハンガリー語。唐辛子、ピーマンの仲間であり、16 世紀以降 17 世紀にヨーロッ
パ全土に広まり、その土地ごとの風土に合わせて品種が多様化した。パプリカはとりわけ辛味成分をほとんど含んでいないの
が特徴。ただし、ハンガリーの食文化において大きな役割を果すようになったのは 19 世紀以降になってからと言われている。
2) noisee ロースの中心部分を円筒形に切り出して調理したもの。
3) pocher < poche ポシュ(ポケット)からの派生語。ポーチドエッグを作る際に、ポケット状になるところからこの用語が定着
した。沸騰しない程度の温度で加熱調理すること。
4) 象牙、の意。
5) pocher(ポシェ)
6) 19 世紀、7月王政期の国王ルイ・フィリップの第 3子、フランソワ・ドルレアン・ジョワンヴィル海軍大将(18181900)の
こと。エクルヴィスとクルヴェットを用いた料理に彼の名が冠されたものがいくつかある。
7) すなわち、布で漉すところまで。
8) 魚の場合は、クールブイヨンを用いてやや低めの温度で煮たもの。魚料理用ソース・アシェ訳注参照。
9) 18 世紀末〜19 世紀初頭にかけて活躍したフランスを代表する料理人の名(? 〜1812はじめコンデ公に仕え、革命時にコン
デ公の亡命にも随行したが、後にフランスに帰国し、ナポレオン
き か
麾下に入った。ナポレオン自身は食に無頓着であったが、直
接的にはミュラ元帥のもとで料理長として活躍した。タレーランに仕えていたアントナン・カレームは 2年程の期間であった
が、ラギピエールとともに宴席の仕事に携わり、生涯を通して師と仰ぐ程に尊敬してやまなかった。当然だが料理においてカ
レームはラギピエールから大きく影響を受け、そのことを後年、数冊の自著で明記している。ラギピエール自身はミュラ元帥
に従ってロシア戦線に赴き、その撤退の途中、極寒の地で凍死した。カレームは 1828 年刊『パリ風の料理』の冒頭 2ページを
「ラギピエールの想い出に」と題し、とても力強い文体でその死を悼んだ。
1) カレームの未完の大著『19 世紀フランス料理』第 3巻に、このソースのレシピが掲載されている。少し長くなるが引用すると
「ラグー用片手鍋に、魚料理用グランドソースの章で示したソース・オ・ブールをレードル 1杯入れる。ここに上等のコンソメ
大さじ 1杯か鶏のグラス少々を加える。塩 1つまみ、ナツメグ少々、良質のヴィネガーまたはレモン果汁適量を加える。数
秒間煮立たせ、上等なバターをたっぷり加えてから供する。(中略)ソースに火を通してからバターを加えるというこの方法
よって、なめらかな口あたりで、油っぽくならない仕上がりになる。だからこそ私はこのソース・オ・ブールをグランドソー
スに分類しなかったのだし、バターを加える派生ソースにおいてこれは重要なことだからだ。それは魚料理用ソースについて
も同様のことだ (pp.117-118)このレシピにおいて、カレームの表現には矛盾がある。「魚用グランドソースの章で示した
あるのに「グランドソースに分類しなかった」となっていることだ。実際、ソース・オ・ブールそれ自体はこの「ラギピエ
ル風」の直前にある。さて、このソースが「ラギピエール風」であることの理由だが、同じ巻の「魚料理用ソース・エスパニョ
ル」の説明の冒頭において、ラギピエールから聞いた話として、四旬節の期間(小斉=肉断ちをする慣習がカトリックに根強く
あった)に、魚料理用のソースにコンソメや仔牛のブロンドのジュを混ぜている修道士料理人がいたの、と述べている。それ
なら美味しくて当然だろう、とカレームが問うと、ラギピエールは「そうやって作った料理は、通常の肉を食べていい時の料
ホワイト系の派生ソース 33
よって「ソースブール ラギピエール風」
と名付けられたものだ1)
リヴォニア風ソース2)
Sauce Livonienne
バターを加えて仕上げた3)魚のフュメで作った
ヴルテ 1 L に、12 mm の細さで長さ 34 cm
の千4)にしたにんじん、セロリ、マッシュ
リューム、玉ねぎをあらかじめバターを加えて
弱火で蒸し煮5)しておいたもの 100 g を加える。
最後に、12 mm の細さのトリュフの千切り
粗く刻んだパセリを加える。……その後、味を
調えること。
……このソースは、トラウト、サーモン、舌び
らめ、チュルボタン6)バルビュ7)のような魚に
よく合う。
マルタ風ソース8)
Sauce Maltaise
に、ス・オ
り、提供直前に、ブラッドオレンジ 2個の搾り
汁を加える。ブラッドオレンジを用いないとこ
のソースは成立しないので注意。オレンジの皮
の表面をおろしたもの9) 1つまみを加えて仕上
げる。
……アスパラガスに添える。
ソース・マリニエール10)
Sauce Marinière
ソース・ベルシーを本書で示したとおりの分量
で用意する。これにムール貝の茹で汁を詰めた
もの大さじ 34杯を加え、卵黄 6個でとろみ
を付ける11)
……ムール貝の料理専用。
白いソース・マトロット12)
Sauce Matelote blanche
白ワインで作った魚のクールブイヨン 3 dL
フレッシュなマッシュルームの切りくず13)25 g
を加えて 1/3量まで煮詰める。
魚料理用ヴルテ 8 dL を加える。数分間煮立た
せる。布で漉し、バター 150 g を加える。
カイエンヌ14)ごく少量で風味を引き締める。
ガルニチュールとして、下茹でしてからバター
で色艶よく炒めた15)20 と、
かじめ茹でておいた小さな白いマッシュルー
16)20 個を加える。
理とは違うものであり、かといって肉断ちの料理でもない、まさに中間のものだ。その判定は天のみぞ知るところだろう。結
局のところ、修道士たちは元気に暮していたのだから、それは正しかったのだよ」と煙に巻いたという。カトリックの習慣と
しての小斉=肉断ちのための魚料理用ソースに、肉由来である鶏のグラスもしくはコンソメを加えるというところが、ラギピ
エール風と名付けた
ゆえん
所以であり、まさにこれこそがソース・ラギピエールの重要なポイントと考えられる。『料理の手引き』
おいてこのレシピを担当した執筆者はこのエピソードを読んでいなかったのだろうか? あるいは何らかの誤解ゆえに改変をし
たのか、ラギピエール風の
ゆえん
所以である鶏のグラス、コンソメを用いるべきところを、魚のグラスに代えてしまい、このソース
名の由来を換骨奪胎してしまう結果となっている。本書の初版において、原注がその文体から、エスコフィエの手になるもの
か、あるいは聞き書きしたコメントであることはほぼ明らかなので、なぜエスコフィエがこの点を見逃したか、あるいは許容
したのかは非常に興味深い。ところで、カレームが、バターを仕上げの際に加えるということ、いわゆるブールモンテ monter
au beurre によってソースの口あたりをなめらかなものにし、色艶をよくするということをことさらに言及しているの点もま
た、注目に値すべきだろう。
2) 現在のラトビア東北部からエストニア南部にかけての古い地域名、いわゆるバルト三国の一地域と捉えていい。本書執筆時に
はロシア帝国の一部となっていた。なお、料理名に冠される地名のうちの少からずのものに明確な由来のないのと同様に、こ
のソースについても名称の由来は不明。
3) monter au beurre バターでモンテする。
4) julienne ジュリエンヌ
5) étuver au beurre バターでエチュヴェする。
6) turbotin < turbo チュルボ。鰈の近縁種。
7) barbue 鰈の近縁種。
8) シチリアの南方に位置するマルタ島を中心とした国、マルタはオレンジをはじめとした柑橘類の産地であり、とりわけ 19
紀にはマルタ産のブラッドオレンジが人気であった。一例としてバルザックの小説『二人の若妻の手記』において、つわりに
苦しむ妻のために夫がマルセイユの街で「マルタ産、ポルトガル産、コルシカ産のオレンジを買い求めた」(p.312) と書かれて
いる。
9) zeste ゼスト。
10) marinier/marinière < mare ラテン語「海」から派生した語。貝や魚を白ワインで煮た料理にも付けられる名称。
11) 卵黄でとろみ付けをする場合、あらかじめ生クリームあるいは茹で汁などで乳化させてからよく混ぜながら加えるのであれば、
必ずしも弱火でなくても問題ない。ただし、沸騰状態だと滑かに仕上がらないリスクが残るので、ある程度は弱火にした方が
いいだろう。
12) 水夫風、船員風、の意。
13) 料理、ガルニチュールとして供するマッシュルームは、トゥルネといって螺旋(らせん)状に切り込みを入れて装飾するのが
一般的。その下ごしらえの際に大量のマッシュルームの切りくず(おおむねに重量比で 1520 %)が出るのを利用する。
14) cayenne 唐辛子の 1品種。日本で一般的なカエンペッパーよりは辛さがマイルドで風味も異なる。
15) glacer au beurre(グラセオブール)バターでグラセする、と表現する調理現場も多い。glace グラス(鏡)が語源であるため、
本来は「光沢を出させる、照りをつける」の意だが、食材や料理によってその手法はさまざま。にんじんや小玉ねぎの場合に
はあらかじめ下茹でしておく必要がある。
16) これを用意している段階で、上述のトゥルネを行なう。常識的なこととして明記されていないことに注意。この作業の結果
ソースを作る際に魚の茹で汁(クールブイヨン)に加えるマッシュルームの切りくずが発生する。
34 I.  ソース  Sauces
ソース・モルネー1)
Sauce Mornay
ベシャメルソース 1 L 、このソースを合わ
せる魚の茹で汁 2 dL を加え、2/